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トレンドワードも入れ替わる。
一位は【影モンスター】、二位が【蛇の蹴り】ときて、三位は【影モンスター終了のお知らせ】となっている。
《うそやん》
《強いなーとはわかってたけど、蹴り一発で倒すとか( ̄▽ ̄;)》
《メシア、雪華、恋も弱くないのにな》
《むしろ、その三人が影モンスター相手に苦戦してるという現状》
《まぁ、あのメシアの知り合いだしな》
《知り合いっていうか、かつてのメシアを助けたっぽいからなぁ、あの蛇》
《しかも誰かと電話してるぞ》
《なにこの強者感……》
《でも、ほかの三人を助けようとはしない、と》
《って、あばばばば?!》
《恋が殺られた!!》
《雪華もやべぇぞ!腕がとんだ!!》
コメントから分かるように、冬真達はピンチに陥りつつあった。
恋が小さく囁き、指を鳴らそうとする。
しかし、そこで影のモンスターが踊りかかってきた。
それをひらりと、避ける。
が、避けようとした瞬間、バランスを崩してしまう。
恋は、その一瞬のすきをつかれ両の手首を切り落とされてしまう。
(うそ……)
内心、愕然とする。
しかし、口から出たのは、
「いっ、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!??」
絶叫だった。
影のモンスターはそんな恋の喉を手にした短剣で切り裂く、大量の血を噴水のように撒き散らしながらその場に倒れてしまう。
そこを影のモンスターが、滅多刺しにしていく。
「……っ、ヴぁ、あーーーー!!」
空気に混じって、わずかな声のようなものが恋から発せられた。
それは痛みと絶望による叫びであった。
けれど、喉を切り裂かれ出血多量によりすでに意識は朦朧としているので叫びというほどの、声の大きさはなかった。
《うっわぁ》
《グロい》
《恋たん、今度こそ終了のお知らせ》
《雪華は、おおー、なんとかやってるが》
《この影モンスター、強い……》
《あ、ダメだな》
《雪華も喉斬られた!!》
《魔法、異能、言い方はなんでもいいけど基本大なり小なり声に技名出さないと使えないからな》
《使えないというか、不思議力を顕現させられないというべきか》
コメント数が極端に減ってしまう。
そのグロさに視聴者の九割が、コメントを書き込まなくなってしまったのだ。
というのも、ここを見に来てる視聴者のほとんどは探索者ではなく、一般人だからだ。
それも、普段はグロいところは見せないよう配信者が配慮してる実況を見てるもの達ばかりだからだ。
残りの一割、つまり書き込みをしている者たちは、冬真達と同じ探索者かこういったグロい配信も普段から視聴しているもの達となる。
そして、その中には当然というべきか野次馬根性で見に来たスレ民達もいた。
《ここなー、ムズいよなぁ》
《いやいや、二階層はまだまだ序の口よ》
《スレ主は、あー、これ分析してるのか》
《スレ主、ここは初めてだもんな》
《一応、バベル攻略者ではあるけど、それで天狗になってるとバベルより下のランクのダンジョンでもあっさり死ぬしね》
《勝って兜の緒を締めよ、ってね》
《ぶっちゃけ、喉や印を結ぶ手をやられなきゃなんとかなる》
《スピードあれば、二階層は楽勝なんよ》
《コメントにも強者いて草》
《というか、あれ?精神異常は??》
《普通に殺してるだけ?》
《そういえば、精神異常になることなく殺されてるな》
《あー、それはな》
《死んでからが勝負》
《え?》
【死んでからが勝負】というコメントの直後、それは起こった。
《!?》
《!!》
《!?》
《!?》
《!!??》
《!?》
《は??》
《え、恋、生きてた??》
《雪華も》
《ちがう》
《様子がおかしい!!》
《え、影が二人の中に吸い込まれた?》
血まみれのまま、ゆらゆらゆらりと恋と雪華は立ち上がる。
その目には生気がない。
虚ろだ。
しかし、妖しい紅い色に変わっている。
二人の切り落とされた手や腕がコロコロと転がり、二人の近くまで来ると宙へと浮かびあがる。
そしてくっついた。
神経も繋がったのか、なんなく動かせている。
その二人が、いまだに自分の影と戦っている冬真へと襲いかかってきた。
「えええ?!
ちょちょちょ、タイムタイム!!」
さすがに焦って、冬真は自分の影と距離を取る。
しかし、真っ直ぐにたしかな殺意をもって恋と雪華がおそいかかってきた。
いつもと動きが違う。
《これ、あの影のモンスターに寄生されて操られてるよな?》
《おそらくな》
《ほぼ100ぱーそうだろ、状況的に見て》
《メシアが苦戦してるのは、自分の動きを真似してくるからかな?》
と、ちょうどそこに電話を終えた蛇が、視聴者のために説明してくる。
「動きの真似もなんだけどなぁ。
どうも、このダンジョンそれぞれの階層のモンスターと戦うと、動きやらをパクられるらしくてな。
階層を経るごとに、相手が学習して強くなってくんだわ」
《マジか》
《うそやん》
《えー、マジかぁ》
「まぁ、一度出るとそれはリセットされるんだけどな」
《そういうことは、早く言えーー!!》
《つーか、蛇は肝試しだなんだって言ってたのに、このダンジョンのこと知ってたんじゃないか!!》
《嘘つきめ》
「嘘なんて言ってないぞ?
肝試しはホントだし、精神に異常をきたす謎があるのもホントだろ?
それに、謎謎の出題者が最初から答えを提示するのはおもしろくないだろ??」
《蛇の甘言って、こういうことを言うのかなぁ》
《あー、なるほどだから蛇は一階層だと手を出さなかったわけね》
《だから、影を一発で仕留められたわけか》
《って、メシアヤバいだろ》
《一対三だからな》
《メシア対メシアの動きをパクった影、操られてる雪華、操られてる恋か》
「保育園の先生だって、謎謎出す時は知らないフリしてくれるしな」
《そんなこと言ってる場合じゃないだろ!》
《メシアが苦戦してる》
「あいつ――スレ主は、こういったシチュには慣れてないからなぁ」
《え?》
《それって、どういう》
「つまり、ゴブリンとか人型のモンスターを倒したことはあっても。
操られているとはいえ、人を殺したことは無いんだよ」
《え、え??》
「現に見てみろよ、隙をうかがって万能薬を二人にぶっかけようとしてる」
《あ、ほんとだ》
《でも、自分の影に阻まれて上手くいかないのか》
「俺だったら、1回殺してそれから生き返らせるかなぁ。
その方が早いし」
《お前は鬼か》
《蛇がやべぇ》
《蛇は鬼だった??(錯乱)》
《いや、わかる》
《ここなー、そっちの方が早いからなぁ》
《って、あ!!》
「あーあー、全力出さないから」
目の前の光景に、蛇が呆れた声を出す。
《メシアが刺された!!》
冬真の腹部に、彼の影の持つ短剣が突き刺さる。
蛇が、
「うーん、今回はここらが潮時かなぁ」
と呟いて、手を叩いた。
瞬間、光の鎖が現れ冬真の影、操られた恋と雪華を拘束する。
「おい、大丈夫か?」
蛇は冬真へと声をかける。
冬真は、その場に膝をつきつつも自分で刺さっていた短剣を引き抜き、持ってきていた万能薬を傷口にかけ、さらに飲んだ。
傷口がふさがる。
「まぁ、なんとか」
そんなやりとりの間にも、影、雪華、恋は鎖から逃れようと暴れ続けている。
それには目もくれず、蛇は冬真になにやら耳打ちをした。
「え、マジ?」
「マジマジ」
「じゃあ、今日はここまでにしとこうかな」
そのやり取りはドローンによって配信されている。
そのため、
《なんだなんだ??》
《どしたどした??》
視聴者達も、疑問をコメントでぶつけて来た。
「あー、ちょっとこの状態だし、今日の配信はここまでにする。
これ以上進むのは、無理だ」
《えぇ....(困惑)》
《Σ(*oωo艸;)エェ!?》
《それがいいかも》
《普通の配信なら完全なる配信事故になるからな》
「幸い蛇は、雪華と恋この二人の状態を元に戻す方法をいくつか知ってるから、噂のような状態にはさせないってさ」
《そ、そうか》
《ε-(´∀`;)ホッ》
《信じるぞ》
「だから、今日の配信はここまで。
目標にいけなかったのは悔しいけど、仕方ない。
それじゃ、ここまでご視聴ありがとうございました」
冬真の挨拶の直後、映像が暗転した。
音声は完全に切れている。
しかし、動画が完全に終わるまでは暗転のまま数十秒から一分ほど時間があるので、コメントが書き込まれる。
《8888888》
《888》
《88888888》
《凄かったなぁ》
《あのメシアがまさか刺されるとは》
《乙》
《乙》
《配信お疲れ様でした》
《恋と雪華、大丈夫かなぁ》
《大丈夫だろ》
《少なくとも、メシアは一度雪華助けてるし》
《蛇が食わせもの過ぎんだよ》
《888888》
《88888》
《雪華たち、精神異常大丈夫かなぁ》
《蛇を信じるしかないだろ》
《乙》
《8888888888》
《しかし、これまずくね?》
《マズイだろ》
《結果出せてない、よな?》
《資格剥奪にならんばいいが》
こうして、今回の配信は終わったのだった。