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そんなこんなで、探索者連盟本部【管理部】が動き出した。
しかし、その事を冬真達は当然知るよしも無い。
「片付きましたね」
最初にそう声を発したのは恋であった。
《゜+。:.゜おぉ(*゜O゜ *)ぉぉ゜.:。+゜》
《さすが》
《とりあえず、乙》
《888888》
《乙》
《888》
《888888》
《888888》
《8888888888888》
《でもまだ一階層なんだよなー》
《なーなー、恋ちゃんに質問( ゜A゜ )/》
「はい?なんでしょう??」
タイミングが合わなくて、ドローンには映し出されなかったが、恋は自分に向けられた質問に一瞬嫌そうな顔をした。
冬真と雪華はドラゴンから素材を取るのに夢中でそのことに気づかない。
気づいたのは、
「…………」
全体を観察していた蛇くらいである。
《恋ちゃんの魔法って、重力を操る系?》
恋は、その質問に一瞬考える素振りを見せた。
自分の下唇に右手の人差し指をあて、言うか言うまいか考えているようだ。
やがて、
「んー、とりあえず秘密ということで」
《おや》
《ほかの実況者はわりと色々説明してくれるのに(´・ω・`)》
《えー、なんでなんで??》
「端的に言えば、ダンジョンでほかの探索者とかちあった場合なんですけど。
ほとんどの方は常識的な方々ですが、やはり一部常識的でない方々がいますので。
そう言った方々に、こちらの魔法に関する情報が渡ってしまう可能性は、ちょっと遠慮したいんですよ」
《あー、なるほどー》
《なるほど》
《たしかに、たまにガラの悪い探索者とかち合って血の雨が降ることあるもんな》
《たしかに》
《あるある》
《ダンジョン内の殺しは、殺人にならないしなー》
《(*´・ω・)(・ω・`*)ナ-》
《ぶっちゃけ、これ使って罪から逃げてるやつ結構いるもんな》
《犯罪組織が殺した奴らを捨てるのに使ってたりするとは聞いたことある》
《死体を捨てるならまだマシだろ》
《そーそー、下手すると人身売買で商品価値が無いって判断された子供とかを遺棄するのに使ったりするしな》
《それも、スタンピードさえなければ基本的にランク関係なく、ダンジョン周囲にモンスターは出ないから、やろうと思えば一般人でもダンジョンまでは行けるんだよなぁ》
《そうそう》
《そんで、ダンジョンに放り込んでモンスターに殺させるか、空腹で餓死させるんだ》
《グロ……》
《え、でも、それって普通に逃げ出せるんじゃ??》
《だよなー》
《ダンジョンの奥に行くふりして隠れる、それから連れてきたヤーさんが帰るの待ってから逃げ出せばいい》
《幼児ならまだしも、小学校中学年くらいの子ならそれくらいの知恵があってもいいはずだがな》
そこで、素材の解体を終え自分の取り分をしっかり確保した冬真が、疑問に答える。
「逆らえないように、特別調合されたポーションを飲ませられるんだよ。
飲ませてきた相手の言うことは絶対に聞くように。
逆らえないように、反撃されないようにな。
俺の時は、葡萄ジュースと炭酸ジュースに混ぜられてた。
ちなみに、摂取量が多ければ、その効果は死んでも消えない。
つまり、1度死んで生き返れても消えないんだ」
《……え?》
《は??》
《はい??》
《なんか、メシアがやべぇこと言ってるんだが??:(´◦ω◦`):ガクブル》
《おいおい、そんなことするヤツいるわけねーだろ》
《非人道的すぎないか?》
《法律があるだろ、そんなことしたら捕まるじゃん》
《お前バカだろ》
《法律が遵守されてるなら、そもそも犯罪組織なんて生まれた端から逮捕されるだろ》
《捕まるどころか、そもそも犯罪組織という存在自体が生まれないと思う》
《ちょっとでも世界の理不尽に触れてるなら、法律に守られない存在がいるって知ってるはずだぞ》
《法律を頼れ、守ってくれるっていえるのは、世間知らずか、ちゃんとそういったことに守られてきた、温室育ちくらいだ》
《メシアは、2種類のジュースを飲ませられてダンジョンに捨てられたんか?》
興味本位でなかなかグロい質問が書き込まれる。
雪華と恋が、冬真を見た。
蛇は、苦笑する。
「んー、半分正解」
《半分?》
《半分とは??》
《というか、メシアの過去がアレ過ぎてワロエナイ》
《過酷すぎるだろ》
《周囲の大人ガチャや環境ガチャに外れまくるとこうなるのはあるあるだよ》
「親にそのポーションを混ぜられた葡萄ジュースを定期的に飲ませられてた。
炭酸ジュースは、親の借金関連で家にやってきた裏社会の人らに飲ませられた。
そんでダンジョンに捨てられた。
まぁ、水に混ぜたでも良かったんだろーが。
あのポーション、酷く苦くてな子供がそのまま飲もうとしても、飲み込めずに吐き出すんだ」
《うわぁ》
《うわぁ》
《おいおい、そんな親がいるわけないだろ》
《仮にも自分を産んでくれた人たちのことをそんなふうに言うもんじゃないぞ》
《うわぁ、コメントもグロい》
《自分の今まで生きてきた世界が、世界の全てだと思ってそう》
《すっごい良い親に育てられたんだろうな》
《ぬるま湯の中でしか生きてきてないだろう人達が一定数いて、なんていうか羨ましいわー(棒)》
《文字通り生きてきた世界が違うから、理解はしてもらえないもんなぁ》
《虐待やん》
《毒親の種類にもよるけど、やる親はやるぞ》
《メシアの親は、メシアのこと所有物としかおもってなさそう》
《いやいや、それこそ取り締まれるレベルだろ、そのポーション》
《取り締まりましたー、もう二度と使う人は現れませんでしたー、めでたしってなるか、ボケ》
《どんなに制度や法律っていうルールが整ったとしても、人の性質はそう簡単に変えられないしなぁ》
《それにしても、よく生き残れたな》
《ほんとだわ》
《そのポーション漬けにされた割に、よく生き残れたな》
「あ、あー、うん」
冬真はそこで、蛇を見た。
「助けてくれた人達がいたから」
その声が、いつもよりやわらかいものとなっていることに、本人は気づかない。
《そりゃ運が良かったな》
《(*´・ω・)(・ω・`*)ナ-》
良かった良かった、とコメントが流れていく。
雪華が複雑そうな顔をする。
そんな中、恋が蛇を見た。
「あなたの事ですか?」
「?」
いきなりの恋からの問いかけに、蛇は首を傾げる。
「彼を助けたのは、貴女ですか?」
「そういや、仲間たちと迷子を保護したことはあったかな」
恋に対して、蛇はそう楽しそうに返すのだった。