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SSランクダンジョン【レンフィールド】は、塔の形をしている。
昔は美しい田園風景が広がっていた場所に、そのダンジョンは出現した。
最初こそ、様々な探索者が潜っていたのだが、蛇の説明にもあった通り精神に異常を来す者が続出し、さらにモンスターも強力なものばかりとあって、SSランクとなったのだった。
《しかし、精神に異常をきたす、ねぇ?》
《有名な、窓に窓に~的なやつかな?》
《具体的にどんな症状が出るんだ??》
《見えないものが見えたりするとか?》
このコメントに答えたのは、蛇だった。
「名前でわからんか?」
先を進む恋と雪華の視線が、蛇へ向けられる。
しかし、二人は何も言わない。
わからないのだ。
一方、冬真はずんずんと先に進んでいく。
《名前?》
《ダンジョンの名前になんか秘密があんの?》
《そういや、こんだけ同接数稼いでるのに海外勢のコメントないな》
《あ、言われてみれば日本語ばっかりだ》
《もしや、書き込み言語とか地域に制限とかかけてる?》
ダンジョンの名称についてもだが、世界中が注目してる割に海外からの書き込みが皆無なことについて質問が飛んでくる。
これには、冬真が答えた。
「俺、英語もだけど他の国の言葉全然できないんだよね」
《翻訳ツール使え》
至極真っ当なツッコミが流れていく。
「いや、さ。
教科書通りの言葉ならまだしも、その国独特ななんていうか、言い回しみたいなのが来ると、翻訳がおかしくなるじゃん?
あれがちょっと苦手だし。
海外の文化も、その国それぞれだから、なんつーの?
知らんうちに失礼を働いたりしそうで怖くて」
《あー、なんかわかるかも》
《それで制限かけてるのか》
《なるほどー》
《気にしたことなかったな》
《でも、日本だと失礼でもなんでもないのに、他の国だと失礼にあたることを知らんうちに犯してたりしたら、確かにちょい怖いよな》
《雑談はいいから、ダンジョン名について説明はよ》
また蛇の声が入る。
「お、そうだったな。
あのな、精神に異常をきたした連中の行動から、この名前がつけられたんだ」
《行動?》
《どんな行動なんだ??》
《あ、俺知ってるー(*´∀`*)ノ》
「お、知ってるやつがいたか。
まぁ、説明するとだな。
ハエとか蜘蛛を捕まえてそのまま食べるとかだな」
《はい?》
《おぇえええええ!!》
《_| ̄|○、;'.・ ゴホゴホオェェェェェ》
《_| ̄|○、;'.・ オェェェェェ》
《(‐д`‐ll)おぇー》
《蝿を食べる??》
《えっと、なんでそれが【レンフィールド】になるの??》
「ダンジョンの名前を決める時に、連盟の担当者がその話を聞いて、まるで怪奇小説の【吸血鬼ドラキュラ】に出てくるキャラみたいだなって思って、この名前にしたらしい。
そのキャラの名前がレンフィールドなんだ」
《そんな理由かよ!》
《へぇ、そんな理由だったんだ》
《つーか、名前って連盟の人が決めてたんだ》
《というか、SSランクダンジョンなのにモンスター出ないな》
《モンスター、マダァ?(・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン》
《そういや、ここどんなモンスターが出るんだ??》
「連盟がウェブで公開してる報告書読んだ限りだと、トロールとドラゴン、あと影のモンスターらしい」
《影?》
《影のモンスター??》
《なにそれ??》
《影のモンスターなんていたか?》
《居たっていうより見つかってるか、って方が正しいか》
「影のモンスターについては正体不明。
こいつが精神に異常をきたす原因かもとは言われてる」
《なに、影モンスターに遭遇した人みんなおかしくなったとか?》
《怖い怖いカタ:(ˊ◦ω◦ˋ):カタ》
「皆、じゃないけどな」
蛇は流れていくコメントを肯定する。
と、ここで冬真、雪華、恋が立ち止まる。
続いて、蛇も立ち止まった。
四人が周囲を警戒し始める。
《お?》
《どしたどした??》
《wktk》
《モンスターか??》
《土器土器》
《((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル》
「……取り囲まれてますね」
静かにそう口にしたのは、恋だった。
「でも、姿は見えず、か」
冬真、雪華、恋が武器を構える。
蛇は動画内に映されていないので、武器を構えてるかどうかはわからない。
けれど、
「さぁ、楽しくなってきたぜ!!」
そんな弾んだ声が動画から流れてきた。