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冬真がコンビニ弁当を買って、教室で食べようと戻ってきた時には、取材陣の姿は無かった。
どうやら、警備員と教員達によって追い払われたらしい。
(あの短時間で、よく追い払ったなぁ)
冬真はそんなことを考えつつ、教室に向かう。
教室に入ると、先程のインタビューを見た生徒達がチラチラと冬真、と言うより、彼の持つ剣へ視線を注いでいる。
視線を注ぎつつ、コソコソと会話が交わされる。
「たしかに、同じだけど」
「でも、大量生産品のひとつって言っちゃえばそうだし」
「鈴木の奴、授業であの剣使っても剣に振り回されてるだけだったよな」
冬真に注がれる視線。
その中には、恋のものもあった。
けれど誰のどんな視線も、冬真は受け流していた。
親の悪行から近所の人たちに後ろ指を指された経験から、受け流すことを覚えたのだ。
ちなみに、鈴木というのは冬真の苗字である。
しかし、冬真はといえばいつもの猫背で気怠げなまま席に着いて、もそもそ、ゴソゴソと買ってきたコンビニ弁当を食べ始めた。
午後からは実習だ。
寝不足と胃痛で、正直そこまで食欲は無いが、食べておかないと動けないので、無理をしてでも昼食を食べるのである。
食べ終えてから、冬真は机に突っ伏して寝始めた。
そんな感じで、実習までの時間を有意義に使うのだった。
この間にスネークは動いていた。
メシア関連で、全国各地に点在する専門学校と、そこに通っている生徒たちへのメディア関係者による接触についての配慮をお願いするメッセージを、動画とSNSで投下した。
それらがある程度拡散されると、今後のコラボ企画の予定などを詳しく発信した。
世界中が、その情報更新をチェックしていた。
そして、スネークによる今後の活動の詳細が投稿、発信されると、それはあっという間に全世界へと拡散されるのだった。
それを確認したスレ民達の反応はと言うと、
《お、来たな》
《へぇ、なるほどなー》
《SSランクダンジョンに挑戦、ね》
《楽しみだな》
こんな感じであった。
ここに、スネークが久方ぶりすぎる書き込みに現れた。
《よっすー。多忙なスネーク様を労れぃ!》
スレ民たちは即時に反応する。
《乙》
《乙乙》
《おつかれ》
《なんか、大変だったみたいだなぁ》
《まぁなー。配慮のお願い出したのに、効力無いのは流石に泣いたわ(´;ω;`)
こっちとしても、ダン専の人らに迷惑かけたくはないんだ》
《とりあえず、次の日曜日にコラボ企画の生配信するのね?》
《楽しみにしてるぞ》
《おぅ、楽しみにしとけ》
《同接、何人になるか気になる》
《わかる》
《……動画サイトが予告無しでメンテナンスに入ってる件》
《メンテナンスしないわけにはいかないだろ》
《明らかにスレ主達の動画を警戒してるな》
《そりゃ、なぁ?》
《過去、複数回にわたってサイトが落ちれば、ね?》
《動画サイトの運営も、警戒くらいするだろ》
そして、そんなこんなで日曜日。
この数日間で、とくに許可したわけじゃないのにダンジョン配信者についての特集が地上波で組まれたり。
視聴者確保のために、一部の動画投稿者達によって、メシアについての考察動画や分析動画が投稿されまくっていた。
それらが、さらなる広告代わりとなったらしい。
さらに日曜日とあって、冬真達の配信待ち動画への同接数は、初っ端から前代未聞の10億を超えたのであった。
今までは配信して、ある程度時間が経過してこその数字であった。
しかし、配信待ちの時点でこの数字は異常であった。
けれど、その配信の始まりは、ブレない挨拶からはじまった。
《やぁ》
なんなら、片手をあげてコミカルな挨拶からはじまった。