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冬真が教室に入ると、ガヤガヤといつも通りに騒がしい。
クラスメイト達の話題は、やはり昨日のメシアこと冬真によって配信された動画についてだった。
メシアのつぎに話題になっているのは、蛇マスクことスネークについてだった。
彼女は誰だ?
みんなが皆、今度はスネークについて話題にしている。
彼女の正体を、あのマスクの下の素顔が見たい、と話題にしている。
教室に入ってきた冬真に、クラスメイト達は気づかない。
皆、配信された動画について話すのに忙しいのだ。
冬真はいつも通り、自分の席に座る。
そして、突っ伏して寝始めた。
直後、教室内の喧騒が消えた。
冬真は寝ていたのでわからなかったが、昨夜の配信に出ていた恋が登校してきたのである。
恋の登場に、クラスメイト達が昨日の配信の後について聞こうとウズウズする。
しかし、恋にはクラスメイトの誰も視界に入っていなかった。
その視線の先にいるのは、冬真である。
「…………」
感情の読めない、なんとも言えない視線だ。
しかし、あまり長く見ていてはクラスメイト達に妙な勘ぐりをされかねない。
すぐに、恋は冬真から視線を外して自分の席へ行き、座った。
直後、彼女の席の隣に座っている老女が話しかけてきた。
「おはようございます。
昨日の動画、見たわよ。
相手の子とは大丈夫だった??」
どうやら老女は、恋と雪華が険悪になって、暴力沙汰にならなかったか心配していたようだ。
「あ、おはようございます。
えぇ、大丈夫ですよ。
蛇のマスクの人が、間に入ってくれたので」
「そう、良かった」
老女はそれ以上は聞いてこなかった。
本当に、恋と雪華が喧嘩にならなかったことに安心しているようだ。
続いて、頃合を見計らってクラスメイト達が恋の席を取り囲んだ。
恋は質問攻めにあってしまう。
けれど、今後の動画配信や企画参加については、秘密にするよう言われている、ということを懇切丁寧に説明した。
クラスメイト達も、
「それもそっかー」
「まぁ、配信楽しみにしてるね」
「配信されたら見るね」
と言ってすぐに引き下がった。
しかし、これは学校という狭い世界の中での話だ。
世間という、もっと広い世界では馬と蛇の正体を知ろうと動き出している。
あちこちで情報が行き交い、錯綜する。
その中で、メシアこと冬真が動画内で残していた言葉をヒントにして、彼の過去を見つけようとする者がいた。
そして、ほどなくしてその掲示板が発見された。
いまでは細々と一部の者が利用し続ける匿名掲示板。
それでも様々なジャンルにわけられ、建てられ続けている匿名掲示板。
ダンジョン探索というジャンルに分けられた、実況掲示板。
昔はそれなりに閲覧する者がいたが、現在ではインターネット老人会、もとい古参連中のたまり場となっているそこが、再び世間の目に晒されたのだった。
そのことを、冬真はまだ知らない。