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翌日。
登校の道すがら、様々な人達の会話が耳に届く。
「すごかったよねー、昨日の配信」
「雪華と、最年少Sランクダンジョン攻略者の一騎打ちな!」
「メシアはどっちとコラボするんだ?」
「というか、あの蛇の人がヤバすぎる」
「それな。あの蛇女はヤバい」
それらを欠伸をしながら、冬真は聞き流す。
学校へと歩を進めながら、彼はあの後の事を思い返した。
動画の配信を終えた後。
魔法の縄によってぐるぐる巻きに拘束された、雪華と恋はそのまま地面に転がされることとなった。
さて、なんと声をかけたものかと考える冬真の目の前で、その様子を雪華のドローンが撮影していた。
まずはこのドローンを停止してもらおうと考えた。
しかし、それを冬真が雪華へ伝えるより早く、蛇が行動した。
近づいてきたドローンを蹴りつけて、粉々にしてしまったのである。
「ちょっと!なにするのよ?!」
雪華がさすがに声を上げる。
「え、あー、ドローンが邪魔臭かったから片付けた」
「壊したんでしょうが!!」
「おーおー、よく吠えるなぁ。
犬か猫みてぇ」
どうやら、雪華の態度は蛇の加虐心に火をつけたらしい。
これでもかと煽る煽る。
その様子を見ていた恋が、ぐるぐる巻きのまま馬マスクの冬真へと訊ねる。
「……貴方の友達は、なんていうか、人を怒らせるのが得意なのね」
「うーん、得意というか。Sっ気があるというか」
「それはそうと、これ外してほしいのだけど」
「それは、あの蛇マスクに頼んでくれ。
俺の魔法じゃないから、俺にはどうにもできない」
「それもそうね。
ところで、ちょっと質問いいかしら?」
「なに?」
「貴方、兄か弟がいたりする?」
「なんで?」
「なんとなく」
「じゃあ、いない」
「じゃあって何よ、じゃあって」
「なんとなく?」
「なにそれ」
さらに恋が、冬真へなにか言おうとした時。
蛇がコチラを見た。
そして、
「さて、それじゃ企画の打ち合わせといこうか?
お嬢さん方??」
なんて言ってくる。
再度、ぱんぱんと蛇は手を叩いた。
雪華と恋の拘束が外れる。
雪華が今にも蛇を襲おうとして、でも実力差があるので諦める。
雪華のその様子を見て、蛇が、
「つまらない女だけど、身の程はわかってんだな」
なんて言う。
雪華が悔しそうに、憎々しそうに蛇を睨みつけた。
でも、言い返さない。
蛇との実力差が嫌という程わかるから。
わかってしまうから。
そんな雪華に、蛇は続ける。
「身の程わかってるくせに」
そこで蛇は冬真を見た。
蛇は冬真を見ながら、
「アイツにはちょっかいかけるんだ?
もしかしなくても、惚れたか?」
「だれが!!」
「そうかそうか~。
俺はてっきり、好きな子に意地悪するタイプかと」
そこで待ったをかける者がいた。
恋である。
「話がズレてます」
「おお、悪い悪い。
んじゃ、本題に入ろうか」
蛇はそう言って、雪華と恋へ古風な紙の名刺を渡す。
そこには蛇の情報と連絡先が記載されている。
雪華は、受け取った名刺を胡散臭そうに見つめる。
恋は、感情の無い淡々とした瞳で見ている。
「俺がこいつのマネージャーだ。
今後、打ち合わせは俺を通すことになる」
そうして、今後のコラボ企画についての簡単な説明をした後、
「じゃ、今回はここまで。
今後、お嬢さん方への連絡は、それぞれのSNSのアカウントからDMするからそのつもりで。
詳しい打ち合わせは、オンラインでやるから準備しておいてくれ。
希望するオンラインミーティング、リモート用のアプリがあったら教えてほしい」
そうしてテキパキと蛇は、段取りを整えていき、その場は解散となったんだった。
解散する前に、雪華が冬真になにがなんでもドローンの弁償代を払わせると言ってきた。
蛇はそれをニコニコと受け止めると、
「おいおい、話聞いてなかったのか?
俺が窓口なんだよ。
だから、こいつと話したければ俺を通すんだ。
それくらいできるだろ?
お嬢さん??
そうそう、ドローンなドローン。
俺も片付けたよな、お嬢さんのドローン。
まぁ、弁償してやってもいいけどさ。
その前に、お嬢さんもスレ主へ返すものがあるだろ?
スレ主は命の恩人なんだ。
お嬢さんの動画を見たが、お嬢さんにはその自覚がある。
それなら、まずはお嬢さんがスレ主へ誠意を見せないとな?
俺、なんか変なこと言ってるか??
お嬢さんがここでこうしてられるのは、誰のお陰かな?」
「うっ、そ、それは!」
「蘇生関連のアイテムって値段がつかないことくらい知ってるよな?」
ダメだしとばかりに、蛇が追い討ちをかける。
雪華が顔を真っ赤にして、泣きそうになってしまう。
「こいつと俺で、お嬢さんのドローンを通算三台壊したけど、それで蘇生アイテムと価値が釣り合うとでも本気で思ってるのか?ん?」
こんな感じで雪華の口を封じてしまったのだった。
これが、昨夜の出来事だった。
雪華はなにか言いたそうに口をパクパクとさせたが、結局言い返さずに終わったのだ。
ちなみに恋はなにも言わず帰って行った。
帰る時、馬マスクを被った冬真をジィっと見てから帰ったのが気にかかる。
もしかしたら、登校したらなにか言われるかもしれない。
昨夜も兄弟はいるか等、探りを入れられていたし。
「う、ちょっとお腹痛くなってきた」
そんな冬真の視界に校舎が見えてきた。