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動画視聴は、設備さえ整っていれば別々の動画でも同時視聴が可能である。
つまり冬真達の生配信と、雪華の生配信を同時視聴する者が何人かいた。
その両方の動画を視聴していた者たちが、冬真達の動画のコメントへと雪華のことを書き込んだのである。
《おいwww雪華の方も場所特定したみたいだぞwww》
そのコメントをたまたま読んだのは、蛇だった。
「ブハッ!アッハッハッハッハッ!!
マジか!!」
唐突に、蛇が笑いだした。
冬真と恋の視線が、同時に蛇に向けられる。
冬真はボロが出ないよう、恋とのやりとりに集中していたのでそのコメントを見逃してしまっていた。
しかし、蛇は気にせず恋が現れた時と同じように天井を見上げた。
そこには大きな穴があいている。
どうやったのかは、知らないが恋があけた穴がある。
釣られて、冬真と恋も天井にあいた穴を見た。
「え、追加?
追加で誰か来てる??」
冬真が戸惑いつつも、そんなことを口にする。
一方、恋はというと感情のない顔で穴を見ている。
「…………」
一言も発していない。
「来たなぁ、落ちてきてる」
蛇は楽しそうだ。
というか、蛇はずっと楽しいのだ。
蛇は楽しいことが好きなのだ。
そして、楽しそうなことをやらかしそうだから、と蛇は冬真を助けてくれたのだ。
親切心からだけではない。
《え、誰々?》
《誰だろ?》
《誰が来るかな♪誰が来るかな♪》
コメントを見逃したのは、視聴者も同じだった。
見逃さなかった者もいるが、見逃した者もいたのである。
程なく、その人物は穴から現れた。
《うお、マジかwww》
《雪華やんwww》
《ナイス着地d('∀'*)》
《同時視聴してた俺、大勝利》
コメントに書き込まれた通り、現れた雪華は綺麗に着地する。
そして、その場にいた者たちの視線を釘付けにしたのだった。
《ダイナミックお邪魔します、その2》
《二回目はさすがにそこまでダイナミックではなかったな》
雪華の登場に、冬真の配信を見ていた者たちのコメントが流れていく。
一方、雪華の配信を見ているもの達のコメントはというと、
《……馬と蛇と、美少女??》
《なんの集会?》
《不思議の国のアリスでも、もうちょっとまともな集会場面だった気がする》
《ここは妖怪の集会場かなにかかな?》
《妖怪とは言い得て妙だな》
《どゆこと?》
《馬=メシア、美少女=最年少Sランクダンジョン攻略者、雪華=Sランクダンジョン攻略できる実力者》
《な?化け物しかいないだろ??》
《蛇は?》
《あの蛇は誰??》
《蛇も化け物ってことになるだろ》
《蛇で化け物だから、オロチとかメデューサとか??》
こんな感じでやはり好き勝手書かれていた。
そんな中、雪華がギロリと馬マスクを睨みつける。
そしてニタァっと笑みを浮かべるのだった。
「みぃつけたぁ♡」
笑みとともに、そんな言葉が馬マスク姿の冬真へと向けられる。
ドローンがばっちりその笑顔を撮影し、冬真と雪華本人の動画にて配信される。
《雪華たん、いい笑顔www》
《ホラー作品に出てくる妖怪じゃん》
《悪人顔》
《この顔芸がいいんだよなぁ、この子》
《なるほど、メシアが山姥呼びしたのわかる気がする》
《雪華って可愛いけど、顔芸もウケがいいからな》
《そんで普通に強いしなぁ》
《本人、顔芸してるつもりは無いらしいけどな》
「ドローン弁償しろや、この馬野郎がァァァ!!」
《恩人に会いに来たのに……》
《まぁ、最優先の目的それだもんな》
《対するメシアの答えはいかに??》
「なんのことだか記憶にございません」
「またそれか!!」
このやり取りを見た、冬真側の動画視聴者達のコメントは、
《さすがスレ主、ブレねぇwww》
《でもさー、雪華もスレ主達のとこにたどり着いてるわけだから、企画には参加するってことだよね、この子》
《弁償してほしいがために、ここまで来るとか……》
《呆れを通り越して、なんつーか気持ち悪いな》
《ストーカーだ》
《ストーカーの所業だwww》
《仮にも人気動画配信者なんだけどなー》
《(*´・ω・)(・ω・`*)ナ-》
こんな感じだった。
散々な言われようであった。