22
携帯端末を開けば、速報記事のお知らせの嵐。
街中を歩けば、号外の新聞が撒かれ。
ダメ押しとばかりに、ビルに設置された巨大なテレビ画面からも昨日の動画のことが流れている。
予想以上の大騒ぎである。
昨日よりもそれは拡大しつつあった。
道行く人たちが、SSSSSランクダンジョン攻略者の出現を話題にしていた。
でも、誰一人としてそれが冬真であることに気づかない。
それは仕方の無いことだった。
普段の彼は猫背だし、常に眠そうというか怠そうだ。
加えて前髪を下ろしている。
傍から見れば、陰キャで覇気のない少年に過ぎなかった。
少なくとも、馬の被り物をして俊敏に動いていた動画の中の彼と同一人物だとはわからない。
担任やクラスメイト達を除けば、もし冬真がメシアだとわかったら人間観察レベルが完ストしてる変態である。
担任、もしくはクラスメイト達が冬真とメシアを結びつけることができるのは、普段から近くにいたからである。
しかし、現状それは半信半疑と言ったところだ。
実際、教室に入るとなんとも微妙な視線を向けられた。
ヒソヒソとなにやら言い合っている。
冬真には聞こえていなかったが、クラスメイト達の会話の内容こんな感じであった。
「似てる、けど、でもあの子があんなはっちゃけ方する?」
「うん、まぁ、言いたいことはわかるけど」
「少なくとも、馬の被り物はしない、かなぁ」
「彼、大人しいし」
「他人の空似だよ、たぶん」
「そもそも、冬真君は火属性の異能は使えないでしょ?
身体強化だけってきいたことあるよ」
「そういえば、授業でも目立った異能を使ったところ見たことないかも」
視線は感じていたが、冬真は気付かないふりをして自分の席の机に突っ伏してしまう。
そのまま携帯端末をいじり出した。
表示されたのは、クラスメイト達の冬真への反応、その報告を楽しげに待つ、スレ民の書き込みだ。
《もう学校着いた頃かな》
《教室に入った途端、喧騒が消えそうwww》
《報告ハヨ》
《動画の再生回数がエグすぎワロタ》
《俺らも実況動画、投稿するかね?》
《道具揃えるのめんどい》
《編集も面倒くさそう》
《それなwww》
冬真は書き込みを読み進める。
そこに、近づくものがいた。
恋である。
「おはよう」
恋が声をかけてきた。
「ん、あ、おはよー」
突っ伏していた顔を上げて、冬真も挨拶を返す。
「ニュースは見た?」
「どのニュース?」
「メシアのニュース」
「メシア??」
素でなんのことかわからなくて、冬真は聞き返した。
彼の中では、ニュースになっているのは馬面のスレ主という認識だった。
「見てないの??
SSSSSランクダンジョン攻略者の動画」
「あー、あの馬の人のやつか」
冬真の認識が改められた。
「知ってるんじゃない」
なんて言って、恋は冬真はじぃーっと見てくる。
「なに?」
「顔もだけど、声も似てるわよね、あなた」
「そう?」
たしかに解説で喋りまくっていた。
だから、そう言われることは想定である。
そしてその時のために言い訳は用意してあった。
「声かぁ。
声だけなら、よく親父と間違われたぞ」
「そうなの?」
「もう会えないけどな」
普通の感覚の人なら、センシティブな内容だとすぐに察してくれるだろう。
恋はどうやら普通の感覚の人だった。
すぐに、聞いてはいけない話だと察してくれた。
(まぁ、突っ込んで聞かれたら正直に言うだけだけど)
親が借金残して蒸発した、と言えばいいだけだ。
噂になるだろうが、嘘では無い。
それに学校の教師たちは知っていることだ。
「…………」
恋が困った顔で黙ってしまう。
丁度よく、朝礼を告げるチャイムが鳴り響いた。