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事前に、ある程度の視聴者数、同時接続数が見込めると聞いてはいた。
冬真にとっては自分の意思が、それなりの人達に伝わればそれでいいと考えていたからそれは願ったり叶ったりであった。
しかしまさか、動画サイトのサーバーが落ちてメンテナンスになるなど完全に想定外である。
掲示板実況もそこそこに切り上げて、冬真なりに今回のことを調べてみた。
そしたらさらに想像以上の反応があったとわかり驚いた。
「…………マズイだろ、これ」
頃合を見計らったかのように、携帯にメッセージが届いた。
[やったぜ!世界のトレンドがお前になったぞwww]
動画を編集、投稿した知り合いのスレ民である。
「やったぜ、じゃねーよ」
文句がもれる。
ここまでの大騒ぎになるなど完全に予想外だ。
何よりも、メッセージに草が生えてるのが気に入らない。
[さては、こうなるってわかってたな??]
冬真は率直な考えを相手に送る。
返ってきたのは、意外な答えだった。
[まさか。
そりゃ、多少は注目されてバズりはするかなとは思ってたけど。
こうなるとは完全に予想外だぞ。
だって考えてみろよ。
世の中、どんだけのダンジョン実況の配信動画があると思う?
さらに人気なのは、決まってライブ配信モノだ。
今どき、あらかじめ撮影しただけのショボイ実況モノなんて、余程の物好きじゃ無ければ見向きもしない]
つまり、良くてちょっと話題になる程度だと相手も考えてたわけである。
[下手すりゃ、偽物、なりすまし行為ってことで炎上するかなって考えてたくらいだ]
その予想が大いに外れたわけである。
「はぁぁぁあ……」
冬真は盛大なため息をついた。
そして、相手へ返信する。
[どうするつもりだよ?]
[どうもこうもない。
こうなった以上、実況者から配信者に転職しろ]
[やだよ]
[少なくとも稼げるぞ]
[顔出ししたくないって言ったよな?]
[顔出しはしてないだろ。
フルフェイスのマスクしてんじゃん]
[馬の被り物をフルフェイスのマスクとか言うな]
[少なくとも、知らんところで親に借金されてたら、また借金取りがお前のとこに押し寄せるぞ]
その返しに、冬真の顔が歪む。
数億の借金こさえて蒸発した両親。
はっきり言って、クズである。
クズはどこまで行ってもクズだ。
それこそ、知らないところでまた、彼の名前で借金をしていることもありうる。
そう、親の名前ではなく、冬真の名前で。
そして、取り立てのためにやってきた借金取りたち。
あの日のことは彼の中で、人生最大級のトラウマとなっていた。
「嫌な事言うなよ」
そうは言ってみたものの、妙な説得力があった。
同時に、冬真が借りて住んでいる部屋のチャイムが鳴った。
盛大に嫌な予感がした。
続いて、ドンドンっ、と激しくドアが叩かれ怒鳴り声が届く。
借金取りだった。
「あんの、クソ親父共がぁぁあ!!!!」
幸いと言うべきか、冬真にはダンジョンで稼いだ金があったので、違法な利子も含めてちゃんと素直に支払ったら借金取り達は帰って行った。
暴力に訴えることも出来なくはなかったが、三年前の借金取りたちとのファーストコンタクトの時のことがトラウマすぎて、身がすくんでしまったのだ。
なにしろ相手が子供だとか関係なく、冬真は借金取りたちに殴られ蹴られ、無理やりSSSSSランクダンジョンに放り込まれたのだ。
怖がるな、という方が無理である。
そんなこんなで、貯金がゼロになってしまった。
老後も余裕に過ごせるようにと、かなりの金額があったのにそれが全てパアである。
冬真は、携帯を見た。
そして、メッセージをやり取りしていた相手、スレ民の一人であり冬真を鍛え上げた師匠とも言うべき存在へ、返信したのである。
[タイミングよく貯金がパアになった。
事情は察してくれ]
[お、ということは?
来たんだな、借金取りwww]
[笑い事じゃねーよ]
[じゃあ、配信者にジョブチェンジってことでいいか??]
[あぁ、こうなりゃとにかく稼ぐだけだ]