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リオは、老女へと連絡を取り、会って今回のことについて、説明することになった。
場所はいつぞやのファミレス。
リオは、老女と今回は娘が同伴していたので、二人へ実験の結果を伝える。
最もいい方法で、家族が戻ってくるかもしれないことを伝える。
老女はとても喜んだ。
でも、すぐにとあることに気づいた。
だから、
「実際にお姉ちゃんたちが彼と戦うところを見てみたい。
参加したい」
と老女が申し出た。
これにはさすがにリオも面食らった。
リオは、老女の娘を見た。
自分よりいつの間にか外見年齢を追い越してしまった、娘はおだやかだ。
何も言わない。
「だって、動画配信をされても誰の記憶にも残らないのでしょ?
なら、そんなのダメよ。
私が頼んだことよ。
私がキールを殺すことを頼んでいるの。
この責任は私が負わなきゃならない。
お姉ちゃん達にだけ背負わせられない。
だから、お願いお姉ちゃん……」
「……いいんだよ、気にするな。
そんな事まで気にしなくていいんだ。
お前はさ、十分頑張ってきたんだから」
未婚の母として、色々言われながらもそれでも立派に子供を育て上げた。
その子供は、どこか誇らしげに老女のとなりで何も言わず、リオと老女の会話の成り行きを見守っていた。
それだけでもう十分すぎるほどなのだ。
「そんなことないよ。
必死だっただけ。
頑張ったわけじゃない。
ただただ必死で生きてきただけ。
私は、その人生も無かったことにしたくないの。
覚えているからこそ、噛み締められるものもある。
無かったことになったら、それすらわからずに終わる。
これまでの人生を、私は忘れたくない。
無かったことにしたくない。
否定したくない。
覚えていたいの。
だから、お願いします」
丁寧に老女はリオへ頭を下げた。
リオは困った顔で、娘を見た。
母親を止めろ、と娘へ視線をやる。
「お姉さんの困った顔はじめてみたなぁ」
と、娘は娘で楽しそうだ。
「母の好きにさせていいよ。
知らなかった??
お母さんって頑固なの」
「お前は、いいのか?
母親が父親の殺されるところを見るのをなんとも思わないのか??」
「面白いこと言うなぁ、お姉さんは。
娯楽のために、何度も殺すところを配信して来たでしょ??」
娘は娘でどこかカラッとして言った。
「アレは、父じゃない。
私は、父を知らない。
だって、産まれる前に父はいなくなったから。
でも、母から父の話は聞いたよ。
たくさん聞いた。
だから言える。
母から聞いた話と、魔族の父は繋がらない。
アレは、父の皮を被った他の生き物だよ。
昔話でさ、あるでしょ?
かちかち山だったかな、タヌキが殺したおばあさんから剥いだ皮を被ってやらかす話。
あ、あと瓜子姫の話でもあったっけ。
【綺羅星屋】の飲食スペースにも、そっちの残酷な方の絵本おいてあったよね。
懐かしいなぁ。
……私にとって、魔族の父はそういう存在なの。
死んだ人の皮を被った、中身は別物の存在。
そんな存在が殺されるところを母が見ることに対しては、うん、なんとも思わない。
私と母は違うから。
それに、私も母もとっくに大人だよ。
だから、ある程度のことは自分たちの責任で受け入れる。
お姉さん、魔族を討伐する日は母のことお願いね。
私は仕事があって行けないから」
娘は、やはりカラッとした笑顔でそう頼んできた。
「……わかったよ」
リオは渋々、了承した。
さて、この話は秘密裏に進められた。
そして、動画配信も掲示板実況もしない予定だった。
だから、余程のことがない限り情報漏洩は無いはずだったのだが。
「メシアがおもしろいことするらしいから行ってみろ、って言われてきたんだけど。
ここ、その会場であってる??」
キール・ロンドを、バベルの外で倒す日。
何故か情報漏洩があり、雪華が現場に現れたのだった。
【追記】
リオの、老女と冬真への扱いの違いについて。
老女はどんなに歳をとっていても、リオのなかで一般人の、普通の小さな子供のままでした。
冬真は、初対面の助けた時にはすでに色々経験し、人生に絶望し、諦観していました。
この違いが扱いの違いに繋がっています。
リオは無意識ですけど。




