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どこにでもある釣り動画。
まさに、視聴者を釣るためだけの中身はスカスカの嘘っぱち動画だと思われた。
しかし、そうはならなかった。
「動画を見てるほとんどの人が知らないと思うから、実況と解説してくな。
まず、バベルの一階層の入口。
ここ一歩踏み出すと、ランダムで」
がごんっ!!
冬真の言葉が途中で遮られる。
天井から無数の棘がついた石版が落ちてきたからだ。
《ヒェッ》
《ガクブル》
《怖い怖い怖い!!》
《こんなん、初見殺しやんけ……》
「こんな感じで罠が発動するわけ」
冬真は無事である。
すぐに下がったからだ。
石版は見えざるロープでもあるのか、ゆっくりと天井へ消えていく。
「さっきも言ったけど、この罠はランダムだから」
それを確認してから、冬真はもう一度一歩踏み出した。
すると、今度は床がパカッと割れるようにして消えてしまう。
撮影用ドローンが、現れた穴、底なしの闇を映し出す。
《今度は落とし穴かよ……》
《初見殺しやべぇ……》
しかし、冬真は無事だった。
落ちる前に、また同じように下がったからだ。
「こんな感じで、入る度に違う罠が発動するんだ。
罠の種類は全部で五つ。
入口だから少なめだ。
ちなみに、発動しない、ってことはないから。
必ずどれか発動する」
《罠の種類まで把握してる、だと……》
《もしかしなくても、罠の種類コンプリートしてるのか、こいつ??》
《もしかしなくてもそうだろ》
《断言してるから、そうなんだろ》
「大切なのはスピードだ。
罠より早く動けば大丈夫、問題ない」
《こんなモーマンタイ、嫌だ》
《そういや、雪華を助けた時のメシアの動き、ガチでやばかったもんな》
《めっちゃ速かったよな……》
《え、じゃあ、やっぱり本物??この馬??》
動画の中では、まるで瞬間移動したかのようにいつの間にか冬真が罠の先へ移動していた。
少しタイミングがズレて、無数の槍が降り注ぐ。
「コツはこんな感じでジャンプすること」
《ドローンは壊れてないな》
《罠の上を、人がジャンプ移動しても発動してるから、罠は人に反応してるのか??》
《ドローンが罠の上を移動したけど、発動してないな》
《じゃあやっぱり、人に反応してるんだな》
《というか、ガチの本物のメシアじゃね?この子??》
《信じるには十分だよな》
《SSSSSランクダンジョンの入り口の罠を知り尽くしてるし、探索も慣れてる感じするしな》
「で、先に進むとこんな感じで、モンスター数十頭に囲まれるから」
《って、ええええ?!》
《ラミアが、こんなに?!》
《サイクロプスもいるぞ!!》
《ミノタウロスやオーガもだ!!》
《え、ちょ、これまさかのスタンピード?!》
《現代の百鬼夜行……》
「あ、そうそう、コレを初めて見るとスタンピードだと勘違いする人多いけど、違うから」
《違うんかい!!》
「俺もさー、最初見た時スタンピードに巻き込まれたかと思ったんだよねー。
あ、死んだ、ってさ。
まぁ、何回か死んでるんだけど。
その度に、秘薬で生き返らせてもらったんだ」
と、冬真は持っていた剣を振った。
軽く、ブンっと振った。
たったそれだけ。
それだけで、その場のモンスターが一掃される。
《何回か死んでるんか……》
《あんだけいたモンスターを全滅させやがった》
《バケモノか、こいつ》
《Sランクオーバーのダンジョンを探索できる奴は、バケモノだよ》
《しかも、少なくとも秘薬を常備してるようなバケモノが協力者にいるとみた》
ここから一気に動画の再生回数が増えた。
再生回数も、まったくの新人が投稿した動画の場合、一日一回再生してもらえれば御の字だ。
数日、それこそ数ヶ月再生回数がゼロの事も珍しくないのである。
しかしこの動画は違った。
動画が投稿されて、十分も経たないうちにその再生回数は、一万回を簡単に超えてしまったのである。