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【ダンジョン】人助けしたら、知らんとこでバズってた件【実況】  作者: アッサムてー
伝説リアタイ世代と、掲示板実況者達
115/117

7

生配信が終わった。

それを見届けて、老女はしばらくなにやら考え込んでいた。

黒くなった携帯端末の画面を、じいっと見つめる。

やがて、何かを決意したかのような表情になったかと思うと、老女は携帯端末を操作しはじめた。

電話をかけるつもりらしい。

数回のコール音の後、相手が電話に出てくれた。




配信を終えた直後、リオの携帯端末に着信があった。

確認すると、最近登録したばかりの番号からである。


「おや、珍しい」


登録したはいいものの、かかってくる事は無かった番号だ。

リオは電話に出た。


「どうした?お嬢ちゃん?」


相手は、【綺羅星屋】の1番古株の常連であり、冬真の同級生でもある老女からだった。


《……あの、配信、みました》


「……クレームかな?」


冗談めかすことなく、わりと真面目な声音でリオはきいた。


《ちが、そうじゃ、なくて。

その、あの、えっと……》


老女は戸惑い、言葉をさがす。


「……電話だと話しにくい?」


優しいやわらかい声音で、リオは返す。

老女からすれば、昔と何も変わらない、変わっていないお姉ちゃんの声だ。


《できればお姉ちゃんと会って、話が、したいです》


老女は珍しく緊張しているようだった。

でも、リオは老女をそれこそ子供の頃から知っている。

だから、声だけで彼女の意思を察することが出来てしまう。


「お姉ちゃんだけでいいのかな??」


リオにとって、老女はいつまでたっても幼い子供なのだろう。

そんな気がした。

老女が萎縮しないように、安心して話せるように問いかける。


《…………》


「自分の意思はちゃんと伝えないと、伝わらないぞ」


《……お馬さんともお話がしたいです。

キールについて、聞きたいんです。

それと、お願いがあって。

とにかく、お姉ちゃんとお馬さん、2人とお話がしたいんです》


「わかった。

馬には確認しておく。

まぁ、馬は断る可能性が高いが、それでもいいか?」


《……うん。

ありがとう、お姉ちゃん》


老女の言葉遣いが、子供の頃のものに戻る。


「……でも、お嬢ちゃんが聞きたいことを話せるかはわからないぞ」


《話してくれるよ》


自信満々に、老女は言葉を返した。


「なんで、わかるんだ??」


《だって、お姉ちゃんは優しいから。

話してくれるって、信じてる》


「買いかぶりすぎだよ、お嬢ちゃん」


そこで、一旦リオは通話を終える。

ドローンを片付け、マスクを取った冬真へ今の電話のことを伝えた。


「え、俺も??」


冬真は目を丸くする。


「そ、いいだろ?」


「……顔隠したままでいいなら、別に」


「よしよし、まぁ、その方がいいだろ」


「?」


「だって、電話の相手、お前の同級生だもん」


正体バレは避けたいもんなー、とリオは冗談めかして続けた。


「……は?!」


「言ってなかったか?

ほら、お前と同級生で高齢の人いるだろ?

あの子だよあの子。

綺羅星屋の常連でなぁ。

俺や店長が不老不死って知っても、言いふらす事は無かったいい子だよ」


冬真の頭に、同級生の老女の顔が浮かぶ。

途中から、冬真にはリオの説明は聞こえていなかった。

ただただ、驚いていたからだ。


※※※


数日後。

とあるファミレスにて、冬真とリオは老女を待っていた。

予定を調整し、休日である今日、会うことになっているのだ。

最初は綺羅星屋の飲食スペースでとも考えていた。

しかし、動画の件でいまだ忙しいままなのだ。

そんな中、店の戦力がゆうゆうと飲食スペースでお茶と会話を楽しんでいるように見えては、いろいろ問題がある。

というより、ほかの従業員の顰蹙を買いかねない。

そんなわけで、ファミレスとなったわけである。


さて、リオはともかく冬真はあの馬のマスク姿で席に座っている。

しかし、誰も注目していない。

リオが認識を阻害する魔法を展開しているのだ。

さすがに、武器や防具を身につけた探索者も利用するファミレスとはいえ、パーティグッズを身につけた人間は目立つ。

そんなわけで、魔法を使用しているのだ。


「今更だけど、冬真はあの子と話したことはあるのか?」


リオがドリンクバーから二つのグラスにジュースをいれ、持ってくる。

片方のグラスを冬真の前に置きながら、聞いた。

あの子、というのは老女のことだ。


「まぁ、ちょっとだけ」


本当に少しだけしか話をしたことがない。

最近だと、あのキール・ロンドに似ていると言われた時くらいだろうか。

四人用のボックス席、その片方に冬真とリオは並んで座る。


「ふーん、あの子、俺たちの動画観てるってのは話したよな?」


そこでリオは、ジュースを一口飲む。

喉を潤して、続ける。


「あの子、前にも言ったけど俺や店長のことに唯一気づいた人間なんだよ。

だから、勘が物凄く鋭かったりするんだが」


「うん?それが?」


「いや、お前が実はめっちゃ強いってことバレてんじゃないかなーって思って」


大当たりだった。


「さすがに、動画配信者のスレ主とお前を結びつけてるとはおもわないけどな」


「あー、まぁ、うん」


そういや、話してなかったなと気づいて冬真は以前あった、老女とのやり取りを説明する。


「あははは、相変わらず鋭いなぁ、あの子」


リオはひとしきり、楽しそうに笑ったあと続けた。


「なら、マスクはいらなかったかもな。

下手すると、今日やりとりしただけで、お前の正体について気づくと思うぞ」


馬マスクの下で、冬真が嫌そうな顔をするのと、


「ごめんなさい、遅かったかしら?」


老女が二人の前に現れたのは同時だった。

てっきり老女だけで来るかと思ったが、もう1人同行者がいた。

若い、二十代から三十代くらいの女性だ。

面立ちがどことなく老女に似ている。

肉親だろうか。


「あ、こちらは孫娘です」


リオと孫娘はお互いのことを知っているらしい。


「おお、ひさしぶり!

娘さん元気か??」


と、親戚のおばさんみたいな声が出ている。

どうやら、孫娘にも子供がいるらしい。


「うん、元気すぎて困っちゃう。

今日はおばあちゃんの付き添い」


「そっかそっか。

まぁ、とりあえず追加でドリンクバーでも頼むか。

話はそれからだ」


リオの言葉に促されるように、老女と孫娘はテーブルの向かい側に座る。

そして、ドリンクバーを注文する。

二人一緒に飲み物を取りに行き、戻ってくると早速本題に入ったのだった。


老女の目的は単純だった。


「私を、キールのところに連れて行ってほしい。

彼を、連れて帰りたいの」


冬真はもちろん驚いた。

だが、リオは驚いた表情を通り越して、珍しく無表情となっていた。

同行者の孫娘はというと、テーブルを叩いて立ち上がり、


「おばあちゃん!?

自分が何を言ってるか、わかってる?!」


声を荒らげた。

さすがに、二人には認識阻害の魔法をかけていないので、店員と客達の視線が集まる。


「落ち着きなさい」


老女はおだやかだ。

どこまでも、おだやかだ。


「こたえてよ!

私の言葉理解できてる?!」


孫娘はヒートアップする。

そこにリオが待ったをかけた。


「とりあえず、おばあちゃんの話を全部聞こうか。

パニくるのはそれからでも遅くない」


冬真は口を挟んでいいのかわからないので、黙ったままだ。

孫娘は老女からリオを視線を移し、キッと睨む。

けれど逆らえないのか、一理あると思ったのか、席に座り直した。


「とりあえず、なんでそんなことをしようと思ったのか聞かせてくれるか?」


老女は、やはりおだやかに微笑んだまま話し始めた。

そこで冬真は初めて、老女とキールの関係を知ったのだった。




翌週の土曜日。

早朝。

冬真とリオは、SSSSSランクダンジョン【神界へ通じる塔(バベル)】の入口前に立っていた。

待っているのだ。


やがて、待ち人達が姿を現しはじめた。


【バベル】に潜り続けている常連、あるいは引き籠もりたち。

スレ民達だ。


「おー、思ったより集まったな」


冬真が率直な感想を口にする。


「小規模だけどレイド戦を仕掛けるって聞いたらなぁ。

参加するだろ、そりゃ」


スレ民の一人がウキウキと言ってくる。

さらに、別のスレ民が、


「それで?

何を企んでるんだ?スネーク??」


「実験だよ、実験」


スネークことリオは、バベルを見上げつつ、その場の全員に聞こえるように言った。

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