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今にも暴動が起きそうな、報道陣と野次馬の前で、恋は堂々とその姿を現した。
「この度はお騒がせ致しました」
そう言って、恋は今にも暴動を起こしそうな、その場にいたもの達へ言葉を投げる。
続いて、ダンジョンで手に入れた【浄玻璃鏡】を見せつける。
「白黒ハッキリさせようと、私は帰ってきました」
そこで、恋は笑みを浮かべてみせる。
「皆さま、真実を知りたくはないですか?」
恋は、ふてぶてしくも見える笑顔を貼り付けてそうのたまった。
その場にいた者たちがザワつく。
「誰が父を殺害したのか、知りたくはないですか?」
報道陣から我先にと質問が飛ぶ。
しかし、それらの質問は無視して、背後を振り返る。
そこには、兄がいた。
腹違いの兄が、ポーカーフェイスのまま立っている。
「ねぇ、兄様、そう思いませんか??」
「思わないね」
「なぜです?」
「お前がその手に掛けたのは明白だからだよ」
報道陣たちのカメラのフラッシュが瞬く。
この様子は地上波でも流れていたが、恋のドローンでも動画として流れていた。
《助っ人のことも気になるが、こっちはこっちでド修羅場じゃねーかwww》
《すまし顔してるが、恋の兄貴かなりイラついてんな、俺にはわかる》
《しかし、どうするつもりなのかね恋は》
《そりゃ、浄玻璃鏡で無実晴らすつもりなんだろ》
《無実晴らすったって、それには父親の遺体が必要だろ》
《火葬は済んでるっぽいよな》
《遺灰or遺骨でも大丈夫》
《なんなら、遺骨入れてある骨壷写すだけでもおk》
《マジかー》
《過去の事件で、そうやって解決した事例がある》
《ま、マジか(;・∀・)》
《でも、素直に骨壷見せるかな?》
《そこだよなー》
《いや、見せないだろ》
《だって見せたら自分が犯人ってわかっちゃうからなぁ》
はてさて、どうするか見物だな、と動画の視聴者たちが見守っていた矢先、その知らせはもたらされた。
《おいwwwやべぇぞwww》
《メシアと全裸男が骨壷を例の鏡に写してるwww》
そのコメントを観た、ほかの視聴者たちの反応はだいたい同じであった。
《は?》
《はい?》
《は?》
《??》
《は?》
《は?》
《は???》
《え、まって( ̄▽ ̄;)》
《意味わかんないんだけど》
メシアたちの動画を見たもの達が、説明する。
《どうも、あの三体の魔族を倒したら、【浄玻璃鏡】をドロップしたらしくてな》
《で、助っ人いただろ?》
《ドローンには早すぎてちゃんと映ってなかったけど、最後の方で魔族三体の首を刎ねた人なんだけどな》
《あの人の入れ知恵があったらしい》
《恋と雪華が報道陣と、クソ兄貴引き付けておいて、その隙にメシアと全裸男が豪邸に入って、真実を実況するってな具合でな》
視聴者たちは呆れるしかない。
《ちなみに、同接数はいつものようにエグいことになってる》
《そりゃそうなるだろ( ̄▽ ̄;)》
《……あ、恋の兄貴が黒服に耳打ちされて家の中に戻ろうとしてる》
コメントにある通り、恋の兄、軍にメシアのライブ配信のことが伝えられる。
顔色を変えて、軍が家に戻ろうとした時、恋が鋭く言葉を投げた。
その表情は少しだけ、悲しそうだ。
「やっぱり、逃げるんですね。
まるで負け犬みたいですよ、兄様」
それは、言わされてる感満載な言葉だった。
けれど、誰も気にとめない。
《おっとーwww》
《ここで恋が言葉でぶっ刺したwww》
《茹でタコとかカニみたいに兄貴真っ赤になっとるwww》
《なんかちょっと可哀想だなぁ》
《お?》
《おお、魔法だ!》
恋の言葉にキレた軍が、魔法陣を展開する。
「そうやって父様と同じように、人を見下すところが嫌いなんだよ、恋」
《あー、この人も色々コンプレックス抱えてたみたいね》
《まぁ、人間ですしおすし》
《兄弟姉妹いるとねー、いろいろあるよねー》
《しかも、片方が優秀だったりすると悲惨よ》
《でも、だからって、父親殺してその罪を妹になすりつけちゃダメだろ》
《え、確定?》
《兄貴が父親殺したの確定??》
《確定だ》
《たった今、メシアたちの動画に映し出されたよ》
《そいつが父親を滅多刺しにした場面がな》
そのコメントが流れると同時に、軍は魔法陣を発動させるため、
「死ね!!」
呪詛とともに、軍は指を鳴らした。
恋が使用している魔法と同じものだ。
威力は恋のものに劣るものの、人を殺害するには十分である。
それが放たれ、恋に向かう。
けれど、恋は何もしなかった。
なぜなら、
「ちょっと試させてー」
と、雪華が言ったからだった。
雪華は持っていた杖を振るった。
それだけだった。
たったそれだけで、軍の魔法が消えた。
雪華は満足そうにしている。
その横をすり抜けて、恋は兄へちかづく。
驚き固まる軍の前に、恋が立った。
そして、
「どうして、こんな馬鹿なことをしたんですか、兄様」
泣きながら、そうたずねた。
どこかで恋は、腹違いとはいえこの兄を嫌いきれずにいたのだ。
自分に対してしたことよりも、どうして父親をその手にかけたのか、恋にはさっぱりわからなかった。
家を乗っ取るだけなら、殺さなくてもよかったはずなのだ。
それに対する返答は簡潔だった。
「お前にはわからないよ、天才」
皮肉たっぷりに、軍はそう吐き捨てた。
その時だ。
誰かが通報したのだろう。
遠くからパトカーのランプと、サイレンの音が聞こえてきた。




