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「風錐魔!!」
雪華の放った魔法が風の渦となり、サイクロプスの体を貫く。
「ギャシャァァアア!!」
サイクロプスの悲鳴があがり、絶命する。
「たくっ、ドローンさえ壊されてなければ同接数稼げたのに!!」
毒づいて、雪華は再び冬真へ振り返る。
彼の姿はすでに消えていた。
「に、逃げた!?
嘘でしょ??」
雪華はすぐに姿を消した冬真を追いかけた。
サイクロプスが現れたのは、ダンジョンの奥から。
もしもそちらに冬真が向かったなら、視界に入っているはずだ。
でも、それはなかった。
なら、逆方向。
つまり、ダンジョンの出入口に向かったと考えるのが自然である。
雪華はすぐにダンジョンの入口へと走った。
今ならまだ途中で追いつけると踏んだのである。
「絶対ドローン弁償させる!!」
そんな彼女の背中を、冬真はすぐ近くの物陰に隠れて見送る。
完全に彼女の気配が消えたあと、そこからひょっこりと顔を出す。
「嘘でした〜。
なんで俺が弁償しないといけないんだよ」
《まずはお礼だよなー》
《(*´・ω・)(・ω・`*)ナ-》
《親の顔が見てみたい》
《雪華は配信で稼げるようになったから、実家出て一人暮らしよ》
《昨日の今日なのになー》
《でもさ、スレ主顔バレしてるけどほんと大丈夫??》
「え、動画で俺の顔ガッツリ配信されてた感じ??」
《まぁ、うん》
《されてたなぁ》
《下手すると特定されるのも時間の問題かも》
《信者だけは多いからな、雪華》
《純粋な動画視聴者も多い》
《ドローン壊したから、スレ主のアンチもわきはじめてる》
「クッッッッソめんどいことになってるじゃん」
《そうなんだよ》
《>クッッッッソめんどいことになってる
(σ゜∀゜)σそれなッッ!!!》
《海外勢の視聴者もいるからなぁ》
《スレ主は動画はあんま見ないみたいだから知らんだろうが》
《スレ主を特定しようって、世界各国の探索者が動き出してるぞ》
「…………」
世界各国??
探索者が動いてる??
自分を特定しようと??
「……は??なんで??」
《スレ主、お前なぁ、自分のことよく知ったほうがいいぞ》
《俺たち、古の探索者達とつるんでるから感覚麻痺してるんだろ》
《SSSSSランクダンジョンでしか手に入らないアイテム持ってて、メチャ強な探索者だけど、無名な奴が出てきたら、誰だアイツってなるだろ》
《スレ主は学生で仮免だから、探索者連盟のホムペにも情報出てないからな》
《野良探索者でそんだけ強い奴がいるってなったらなぁ、正体知りたくなるだろ》
《しかも、それが十代半ばの若者ってなりゃあなぁ》
《スポーツ、芸能、創作、まぁどの界隈でも十代の才あるやつは話題性には十分だしな》
《漫画家とかでもあるだろ?
衝撃の十代作家、連載開始!!
とか煽り文ついたりして売り出すの。
アレだよ、あれ》
《マジ(σ゜∀゜)σそれなッッ!!!》
《加えて、ドローン壊したからなぁ》
《アレで視聴者達の興味を引きつけることになったのは否めない》
《人間って、他人の秘密大好きだからね》
《隠そう隠そうとすれば、暴こうとするやつが出てくるのは必然だろ》
「ウゲェ」
《そんな嫌がるなよwww》
「対策教えてほすぃ」
《仕方ねーなー》
《まぁ、俺たちの玩具のピンチみたいなもんだしなぁ》
《簡単だよ、スレ主も配信者になればいいんだよ》
《(*´・д`)-д-)))ソゥソゥ》
《で、この一連のことについてスレ主なりのメッセージを発信すれば、少なくとも特定しようとしてる連中の何割かは大人しくなるはず》
「いや、だから顔出ししたくないんだって」
《スレ主やスレ主、別に無理やり顔を出さなくても配信はできるんだぞ?》
「え、そうなの??」
配信者は顔出しが絶対だと思い込んでいたので、この書き込みに軽く驚く。
《そうなのwww》
《まぁ、古の探索者であり、うp主でもあった俺たちの言うこと聞いてみろってwww》
《(*´・д`)-д-)))ソゥソゥ、絶対楽しいことになるからwww》
それは、スレ民にとっての楽しいことだ。
決して冬真にとっての楽しいことではない。
それは分かりきっていた。
けれど、他に相談する相手もいないので、冬真の答えは決まりきっていたが。