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ヘルマオン  作者: 萩オス
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ナビロボ・W

 翌日。

 指定された美容院で散髪を済ませたシモンは、簡単な買い物だけ寄り道をして仮住まいへと戻った。

 世界が変わって技術が発達してもなお、人の営みは変わらない。マナーや暗黙の了解にわずかな違いがある程度で、元の世界での散髪や買い物とさほど変わりがない。万全ではないにしろ、一国民になりすます事も問題が無さそうだ。


 端末があれば仮住まいに居ながら炊事や掃除、全ての家事を完結できる。が、日々の買い物で表に出ろとベリンダから指示されていた。学習の一環、実践と言ったところだろうか。


 ベリンダから新たに送られてきたコートに袖を通し、鏡の前に立った。

 元の世界の価値観からするととても生きていけそうに思えない格好だが、この世界のこの国の人間としては申し分無いのではなかろうか。髪型もやや短めに、無精ひげはアダムを参考に整えて伸ばす事にした。


 唐突にインターホンが鳴った。

 ベリンダは夕刻に来ると言っていた筈。訝しみながらカメラ映像を見ると間違いなくベリンダだった。


「さっぱりしたなあ。いんじゃね」

「夕方じゃなかったのか」

「予定してた作業が早く終わったからさ」

 ベリンダはそう言いながらリビングのテーブルにバッグを置いた。

 休日なのに仕事だろうか。などとシモンが思っていると、ベリンダがバッグから手のひらに収まるほどの球体を取り出した。

「これ持ってけよ」

 放り投げられて受け止めようとしたシモンだったが、球体は手に届く前に展開し、魔法陣になった。驚く間もなく、魔法陣から何やら小型の機械が召喚された。

 上の丸い円筒形のそれは上部分がやや出っ張り、口のようになっている。やがてサッカーボール程度の高さの機械全体が魔法陣から出たところで、下部に円錐形の機械が二つ、上部にアンテナのような発光体が飛び出した。

 よくよく見ると上部の左右にジョイントと思しき円が二つあり、目のようにも見える。何に使う機械だろうか。訝しく思った矢先


「はじめましてシモンさん!」


 機械が、子どものような声を出した。

 ジョイントの円部分には発光した小さな丸が浮かび、まるで目のように瞬かせている。見れば、中央部の溝からは魚のひれのような部品が二つ、左右から現れていた。


「ぼくはダブルユー。Wと呼んでください」

 唖然とするシモンをよそに、機械は自己紹介を続けた。

「これからシモンさんの活動のサポートを全般的に行います。よろしくお願いします!」


 なおも無言で、どう反応していいのかわからないシモンを見ながらベリンダがおかしそうに顔を歪める。

「まーロボットの一種だよ。ナビゲートロボット。一通りの会話機能から戦闘サポート機能まで入れてある。装甲もアンドロイドからの攻撃にも耐えられる」

 資料によると、逃亡したアンドロイドには兵器も積まれているらしい。そもそもなぜそんなものが積まれているのか自体不明で、そこも今回の潜入で探りたい点の一つになっている。


「アンドロイドとは違うのか」

「あ~~、広義には同じだけどちげーよ。そいつはドグマもしっかりインストールしてる。万が一バグがあってもお前に反逆する前に自滅するよう組み込んである」

 さらっと機械――Wにとっては残酷な事を言うが、とうのWは何とも思っていないようだ。


「機械は機械だからな。お前の認識がおかしくならねーように見た目はわざと人間や生物から離した」


 これも資料で知ったのだが、アンドロイドはまだ実験段階であると書かれてあった。というのも、世間一般から生理的な嫌悪感をもって忌避され、普及には難があるとの事からだった。

 反乱を切っ掛けに存在が広く知られた事で、更に風当たりは強くなった。あまりにも外装が精巧に作られているため、軍の兵士でさえも討伐に躊躇いが起こり、ピトス社を非難する声も日に日に高まっている。ただ、ごく一部では今回の反乱に同情・同調する声もあるという。

 例えるなら元の世界の魔導人形――ゴーレムがそれに相当するだろうか。一部に熱狂的なゴーレム好きが居る事を思うと、やはり人間はどこも同じようなものかとシモンは思った。


「資料で見たが、作り物の外装に情がわくほどやわじゃない」

「頼もしいね」

「あっ」

 ベリンダが手をかざすとWはまた小さな球体に戻った。戻る前に何か言いたげだったのを気にしたシモンを察してか、ベリンダは再び球体からWを展開する。


「ご挨拶の途中だったんですう~~」

 出て来るなり、Wはふにゃふにゃとぼやく。アンドロイドは会話や意思疎通が完全ではないと聞いていたが、Wは驚くほど会話が滑らかだった。


「こんな感じで余計な『曖昧さとゆらぎ』機能は入ってっけど、お前の退屈しのぎ用だから」

「はい~~、ぼくはあくまで機械ですので」

「さっきやったみたいにちょっとした魔力でオンオフ、出し入れできる。俺とお前の魔力にしか反応しない。球体に戻して持ち歩いてもいっけど、基本的には展開させといて」

「他の連中に見られたら?」

「ナビロボは軍でも使われてっからへーき。どうせ俺との関連はいずれ知られるし、聞かれたら知り合いに貰ったとでも言っといて」


「というわけで、改めてよろしくお願いしますう」

 握手だろうか。Wの差し出したぺらっとした手をシモンはその手に乗せた。やはり金属で出来たそれは冷たい。

 ベリンダにはああ言ったが、外装はともかく、意思疎通がある程度できるとどうしても情はわいてしまうかもしれない。会話機能がスムーズなのも、それを見越した訓練用なのではないかと思えていた。

 そんな事を思いながら、シモンはWの手に親指を添えた。

「よろしく」

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