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不幸な不幸な冒険者

それは唐突に起きた出来事。

凡人の俺達にはまるで想像できなかった窮地。


冒険者をやっていれば、誰だって夢を見る。


成り上がり、最強、英雄……魔物をバッタバッタとなぎ倒し、ものすごい速度で成長する主人公。

絵物語の主人公、それにどこか憧れを抱き、馬鹿な無一文たちは今日も冒険をしていた。


「今日は大収穫だったな!」

「ああ!まさかこんな都市近くの森にレッドキャップがいたなんて、こりゃあギルドに報告すれば情報量がっぽりもらえるってもんだ!ガハハ!」

「邪悪なる魔の魂がまた一つ浄化されましたね……」

「ちょっと、先に見つけたのはアタシなんだから、斥候にも手柄をよこしなさいよね!」

「み、みんな……待ってよ、魔力が切れて……動けない……」


剣士、重戦士、神官、ハンター、魔術師、俺たちのパーティはかなりバランスの取れたもので、それぞれがそれぞれの欠点を補いあう、いいパーティだったんだと思う。


重戦士のガンズは大酒飲みで、パーティ一の酒豪、よく飲み屋で騒いでマスターに怒られていた。


神官のローズは神に祈ることにご執心かと思いきや、これが戦駒では負けなしの戦術家な一面もあって、時々領主様にも呼ばれて戦駒の打ち合いをしているのだとか。


ハンターのセンリは極度の自信家だが、ギャンブルに弱く、臨時で金が入ると翌日にはすっかり溶かしてきてしまう。本人は”もう少しで勝てそうだった”とかいうが、それで勝ってきたことが一度もない。


魔術師のフェリスはセンリのボーイフレンドで幼馴染。

マジックアイテムや魔導書などが売っていると真贋を判断せずに買いあさるものだから、頻繁に騙され、今では彼の部屋には対して価値のない本が山積みになっている。


個性的だが、これでもパーティを組んではや3年。

少しずつギルドの評価も上がってきて、今では最下位のアイアンランクより二つ上のシルバーランクにもなり、同年代の冒険者よりも頭一つ抜きんでた実力にもなっている。

このままみんなで成り上がるんだ。

そう、思っていた。


「レッドキャップを見つけたのだって、アタシ/」


まず、センリの顔が地面に落ちた。

眉間にしわを寄せ、ガンズに文句を言うために一歩踏み出したその足とともに、そばかすの付いた釣り目の顔が、地面にばちゃりと音を立てる。


時が止まったようにも感じた。

彼女はまだ立っている。

片足の膝から下がきれいに崩れ落ち、もうすぐ自重でそのまま倒れるだろう。

彼女の頭はまだ胴体とつながっており、文字通り、彼女の”顔面”だけが地面に落ちている。

顔がもともとあった頭部には、奥歯と喉奥、そして眼窩と輪切りとなった脳髄から血液が滴り落ち、自分が死んだことにさえ気づいていないようだった。


【ァ、嗚呼、何か、ィる……ヒト?】


センリの体が倒れ伏すと同時”何か”が林の中から姿を現した。

それは、見えなかった。

正確に言うのなら、視認が出来ても、認識のできない存在がそこにいた。

確かにそこに”いる”。

それは分かるのに”なに”がいるのかわからない。

それを見ようとすると、視界……いや違う、脳みそそのものに靄がかかる。


【ヒト……人、人間、そゥか、人間……なラ……殺ス】


自分たちよりランクが一つ上、ゴールドランクの冒険者に合ったことがある。

彼らはこう言っていた「殺気がわかるようにならないと、この先生きていくのは難しいよ」と。

俺たちは、彼らが言っていた”殺気”とは、五感の延長線上にある、勘のようなものだと考えていた。

経験から学び、鍛えていけば身に付くものだと。

決して第六感だとかの、オカルトの類じゃないと、理解できないものではないと。


だが違った。

”これ”だ。

”これ”が”殺気”。

自分たちを殺そうとしてきている事が本能で知覚できる。

これは五感だとか、勘だとか、そういう次元じゃない。


これは、無理だ。


足がすくむ。


動くことができない。


目を閉じて祈っていたローズは、それが現れ振り向くと同時に首をねじ切られた。

ガンズは俺に何かを叫び、手を伸ばしたが、それごと輪切りにされた。

フェリスは怒りの形相で血を吐きながら渾身の魔法を放ったが、虚しくかき消され、胸に穴を開けられた。


それが近付いてくる。

俺は―――俺たちの冒険は、そこであっけなく幕を閉じた。






「―――あ、こんなところに逃げ出してる!ダメだよ!君はまだ地上に出るべきじゃないっていったでしょ!」






何者かが俺の前に立ち、それの動きを止めた。

それは、犬の耳を生やした少女だった。

獣化種(ビースト)』神が定めた”人間”の一種。

見るのは初めてだったが、彼女はとんでもない膂力で何かをねじ伏せ、抑え込むとロープのようなもので簀巻きにした。

俺の仲間たちを一瞬で肉の塊に変えたあれを、いとも容易く。

自分よりも一回りも幼い彼女は、いったいどれほどの力を持っているのか。


「そーだそーだ、忘れるところだった」


彼女は簀巻きにしたアレを軽くぶん殴って動きを止めると、こちらに近付いてきた。


「ごめんね人間さん、キミは見ちゃいけないものを見ちゃったんだ。だから一緒に付いてきてくれるかな?付いてきてくれないならキミを殺すしかなくなるんだけど……」


急に入ってきた情報量に理解が追いつかない。

アレが何なのか、少女が何者なのか、すべてが、わからない。


「あーちょっと!寝ないで!面倒くさくなるからぁ!」


おれはいしきをてばなした。


「もう!こうなったら連れてくしかないじゃん!余計な仕事増やさないでよね!」

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