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流るる水に終焉を告ぐ  作者: 久成あずれは
おまけ

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33/38

(余韻が吹き飛びます、閲覧注意)

本編には関係のない話で、こんなことがあったかも……という感じです。平和な日常の一片です。


黒々とした本編の余韻を、少しでも和ますことができれば幸いです。

(余韻に浸りたい方は読まないで下さい。)

完結後の追加投稿、申し訳ありません。

 ある真冬の候、水園家当主と氷雪家の共同作業があった。早朝から取り掛かっていた作業が一段落つき、一同は休憩していた。


 当主の流水(ながみ)が、いそいそと呼吸をしている。両手で覆った口元から、幾筋もの湯気が登っている。

 その蒸気は睫毛(まつげ)や眉毛に引っかかり、いくつもの水滴に変わっていた。その水滴は流水の顔毛を白ませていた。


 側に座っていた深雪が、流水の奇行を眺めている。

 両手を離したかと思えば、瞬きを繰り返し、再び口を覆う。

 流水が何をしているのか気になった深雪は尋ねた。


「さっきから何してるの?」


 深雪に視線を移し、口元の両手を深雪の肩に置く流水。顔を突き出し、輝く(まなこ)で深雪に確認する。


「どう? 睫毛とか眉毛とか、深雪と同じになってる?」


 流水に急接近された深雪は若干焦り、少々のけぞった。聞かれていることの意味を理解した深雪は、苦笑いで答える。


「……流水は色素が薄いから、元から私とほぼ変わらないよ」


「ん──残念」


 流水が深雪から手をどけた。余裕のできた深雪は、流水を見つめる。


「でも、顔中キラキラだね。瓶詰めにして、輝きを永遠に保存したいくらいだよ」


 深雪の発言を面白がるように、流水は深雪の肩にピタリとくっついた。髪の毛が触れ合う距離で深雪の瞳を覗き込み、問う。


「瓶詰めにして、飾る?」


 深雪は眼前の輝きを真っ直ぐに見つめる。例えるなら深緑の宝石であろうか、流水の瞳は。

 吸い込まれるようにして、深雪は流水を抱きしめた。そして頑固たる意思を(はら)んだ声で囁く。


「……宝箱にしまって、私以外の誰の目にも触れないようにする」


「なるほど?」


 深雪を抱きしめ返す流水。流水が深雪の背を軽く撫でると、深雪は彼を開放した。

 自分の腕の中にいる彼を眺め、ふわりと微笑んだ深雪は流水の頬に触れる。


「にしても寒いでしょ。鼻と頬が真っ赤だよ?」


「そうかな……あ、深雪も赤いよ」


 深雪の頬を軽くつねる流水。彼の悪戯心(いたずらごころ)を感じ取った深雪は、流水の頬をつねり返した。


「私は赤くなんてなりません」


 しばらく睨みあった二人は、同じタイミングで手を離した。流水が悔しそうに呟く。


「深雪と違うのは血色か。私も──」

「水様、冷えますよ」


 差し出された両手は、流水の頬を包んでいた。それを見た深雪は、不愉快そうに流水の腕にしがみつく。腕にしがみつく深雪を、増し増しの愛を込めた瞳で眺めた流水は、余分な慈愛の消えた瞳で雫に問う。


「……雫、休憩はもう終わり?」


「終わりじゃないですけど、終わりにしてやりたくなりましたねぇ」 


 雫が忌々しげに深雪を見下ろした。流水は雫を見上げて、首をかしげる。


「……何が?」

「いいえ、何でもありません」


 雫は早口に発言を撤回した。その視線の先には、氷包丁を構えた深雪の黒い笑顔があったのだ。


「休憩、まだあるなら邪魔をしないでくれますか、雫さん」


「……すみませんでした。私、用事を思い出しました、失礼します!」


 そそくさと去って行く雫に、流水が声をかけた。


「え。ああ、またね」


 そんな流水を眺めていた深雪は、顔を曇らせる。

 私に、流水を温められる程の体温があれば……誰も流水に触れられる権利がなくなるのに。

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