(余韻が吹き飛びます、閲覧注意)
本編には関係のない話で、こんなことがあったかも……という感じです。平和な日常の一片です。
黒々とした本編の余韻を、少しでも和ますことができれば幸いです。
(余韻に浸りたい方は読まないで下さい。)
完結後の追加投稿、申し訳ありません。
ある真冬の候、水園家当主と氷雪家の共同作業があった。早朝から取り掛かっていた作業が一段落つき、一同は休憩していた。
当主の流水が、いそいそと呼吸をしている。両手で覆った口元から、幾筋もの湯気が登っている。
その蒸気は睫毛や眉毛に引っかかり、いくつもの水滴に変わっていた。その水滴は流水の顔毛を白ませていた。
側に座っていた深雪が、流水の奇行を眺めている。
両手を離したかと思えば、瞬きを繰り返し、再び口を覆う。
流水が何をしているのか気になった深雪は尋ねた。
「さっきから何してるの?」
深雪に視線を移し、口元の両手を深雪の肩に置く流水。顔を突き出し、輝く眼で深雪に確認する。
「どう? 睫毛とか眉毛とか、深雪と同じになってる?」
流水に急接近された深雪は若干焦り、少々のけぞった。聞かれていることの意味を理解した深雪は、苦笑いで答える。
「……流水は色素が薄いから、元から私とほぼ変わらないよ」
「ん──残念」
流水が深雪から手をどけた。余裕のできた深雪は、流水を見つめる。
「でも、顔中キラキラだね。瓶詰めにして、輝きを永遠に保存したいくらいだよ」
深雪の発言を面白がるように、流水は深雪の肩にピタリとくっついた。髪の毛が触れ合う距離で深雪の瞳を覗き込み、問う。
「瓶詰めにして、飾る?」
深雪は眼前の輝きを真っ直ぐに見つめる。例えるなら深緑の宝石であろうか、流水の瞳は。
吸い込まれるようにして、深雪は流水を抱きしめた。そして頑固たる意思を孕んだ声で囁く。
「……宝箱にしまって、私以外の誰の目にも触れないようにする」
「なるほど?」
深雪を抱きしめ返す流水。流水が深雪の背を軽く撫でると、深雪は彼を開放した。
自分の腕の中にいる彼を眺め、ふわりと微笑んだ深雪は流水の頬に触れる。
「にしても寒いでしょ。鼻と頬が真っ赤だよ?」
「そうかな……あ、深雪も赤いよ」
深雪の頬を軽くつねる流水。彼の悪戯心を感じ取った深雪は、流水の頬をつねり返した。
「私は赤くなんてなりません」
しばらく睨みあった二人は、同じタイミングで手を離した。流水が悔しそうに呟く。
「深雪と違うのは血色か。私も──」
「水様、冷えますよ」
差し出された両手は、流水の頬を包んでいた。それを見た深雪は、不愉快そうに流水の腕にしがみつく。腕にしがみつく深雪を、増し増しの愛を込めた瞳で眺めた流水は、余分な慈愛の消えた瞳で雫に問う。
「……雫、休憩はもう終わり?」
「終わりじゃないですけど、終わりにしてやりたくなりましたねぇ」
雫が忌々しげに深雪を見下ろした。流水は雫を見上げて、首をかしげる。
「……何が?」
「いいえ、何でもありません」
雫は早口に発言を撤回した。その視線の先には、氷包丁を構えた深雪の黒い笑顔があったのだ。
「休憩、まだあるなら邪魔をしないでくれますか、雫さん」
「……すみませんでした。私、用事を思い出しました、失礼します!」
そそくさと去って行く雫に、流水が声をかけた。
「え。ああ、またね」
そんな流水を眺めていた深雪は、顔を曇らせる。
私に、流水を温められる程の体温があれば……誰も流水に触れられる権利がなくなるのに。




