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流るる水に終焉を告ぐ  作者: 久成あずれは
本編:現在

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24、虹と雫と

 水鏡(すいきょう)の間で、私は途絶えることのない報告に耳を傾け、それぞれに対処の方法を解答していった。夜に差し掛かった夕方頃、ようやく事態が落ち着き始めた。


青水河(せいすいが)の修復、完了致しました」


氷壁(ひょうへき)の修復、完了致しました」


 雨水家(うすいけ)氷雪家(ひょうせつけ)からの報告の後、雫が報告に来た。


無名家(むめいけ)の人員被害を報告致します。百二十人中、確認出来ている総死者数は、およそ三十三人。怪我人は、八十二人……重傷者の手当てが間に合っておりません、慈雨(じう)の使用許可を」


「既に五回も使用している……蕾花(らいか)の方は大丈夫なのか?」


「……問題ありません。交代で降らせておりますので、一人一人の負担は少ないかと」


「分かった、許可する。それと、食堂にメイド達が料理を運んでくれた。外の怪我人達に与えくれと頼んでおいた。雫達は休め、夕食、ゆっくり食べろよ。あと、そっちに行くから、ちょっと待ってくれ」


 雫の顔が映る水鏡に足を踏み入れ、水鏡の水深を超え、吸い込まれるように沈んでいった。水に濡れた感覚は無いが、体の力を抜かれるような引力に引っ張られた後、視界が開けた。辿り着いた庭の池から、私は蕾花を使って浮き上がり、地面に降り立った。水鏡を通さずに見る雫の顔には、疲労の色が(うかが)えた。


「やっぱ凄いですね、水様の蕾花能力(らいかのうりょく)緑木家(みどりぎけ)から帰る時も、これ使えばいんじゃないですか?」


「水が無いと使えないんだ。風呂に入った筈の人が、いきなり消えたら怪しまれるだろ。手札はなるべく残しておきたいんだ。それと雫、顔色が悪いぞ? ちゃんと休憩したほうが……」


「大丈夫ですよ? それに、私は……っぐ……」


 夕日に当たっているというのに、雫の顔色は青白(あおじろ)かった。しかし雫は、自分は疲れていない、と否定した。その直後、雫が顔の右側を押さえて倒れるようにしゃがみ込んだので、私は咄嗟(とっさ)に支えた。


「雫! ……大丈夫か?」


大袈裟(おおげさ)ですよ、水様……これくらい全然、大丈夫です……か、ら……」


 作り笑いで誤魔化(ごまか)そうとする雫。しかし鼻血が溢れ、耳と目を覆っている手の隙間からも、流々(りゅうりゅう)と大量の血が滴った。


「大丈夫じゃ無いだろ。私が手当てしてやるから、大人しくして……」


「自分で出来ますって! やって貰って、水様が失敗でもしたら、どう責任取ってくれるんですか、治癒水を使えばちょちょいの……ゔ、ぐ……ゴホッ!」


 私から逃げて蕾花能力を使おうとした雫は、再び(うずくま)り、血を吐いた。顔の右側のみでの出血。恐らく喉辺りからも出血している……雫の蕾花能力、通信水玉によるものだろう。


「蕾花の使いすぎだ。休憩取らずに働いただろ」


 私は、無理やり立ち上がろうとした雫を支えるため、手を差し出すが、雫は私の手を取らずに顔をおさえ、痛みを堪えるような表情で立ち上がった。


「ぐ……ゲッほ……眼鏡の通信、切るわけにはいかないので……それだけは、使いっ放しでした。休憩は取ってましたよ……ちゃんと」


「……そうか……雫の能力を、私が使えれば良いのだが……」


 唸る私を他所に、雫は虚空(こくう)を眺め、言った。


「……じゃあ、今教えますよ」


 視線を戻し、真剣な瞳で私を見据える雫は、大雑把(おおざっぱ)に説明をしてくれた。


「蕾花能力は、イメージが全てです。とにかくイメージ、傷を塞ぐイメージをして水を出すんです……やってみて下さい。てか、この出血は何処に傷が出来たのかとか、判らないんですけどね」


「……分かった、やってみる」


 イメージ、か……イメージ……眼球か(まぶた)の裏側からの出血、傷は眼球周りか? 耳からの出血なら、鼓膜辺りが破れたのかもしれない。よし、元に戻すイメージでいこう。


 蕾花力を雫に流し入れていくイメージで水玉を出現させ、とにかく塞ぐ繋ぐ戻す、をイメージして集中すると、水玉が淡い青緑の光を帯びだした。水玉の中から、外へと気泡が立つ。水玉を抜けた気泡は、シャボン玉のようになって、(しばら)く辺りを漂ってから弾けて消えた。雫の血が水玉に溶けると、それを皮切りに、水玉がスルスルと雫の耳に吸い込まれていった。水玉が跡形も無く消え去った後、成功なのかを雫に確認する。


「えと、これでいいのか?」


 雫は、驚嘆(きょうたん)の表情で口を開閉(かいへい)して、目を見開いている。自分の右耳に何度か触れた後、口を開いた。


「凄いですね……流石(さすが)水園家一の蕾花持ち。初めてなのに完璧ですよ……! 眼もお願いします」


 嬉々として眼鏡を外し、顔を突き出してくる雫に(うなず)き、彼の右眼を包み込むイメージを浮かべた。水玉が出現し、流れ出ていた血を吸収して行く。シャボン玉のような薄い水膜を持つ玉が辺りに漂って、水玉は眼球に消えて行った。そして雫が叫んだ。


「うわっ! ……な、何したんですか水様? 目が……」


 と、不思議そうに左眼を手で隠し、右眼をぱちぱちとさせる雫。


「えっ、すまない、なんかマズったか?」


「いえ……そうじゃありません、ただ……傷を治すどころか、視力まで回復しているんですよ……」


「え……よかったじゃないか?」


 真剣な表情で、更に近づいてくる雫は、瞳を輝かせて頼んできた。


「水様、左眼も、お願いします……!」


「あ、うん……分かった」


 お願いされた通りに左眼も治してやると、雫の視力は両目とも完全に回復したらしい。眼鏡を握り締めて喜びを味わっている雫に、忘れていたことを伝える。


「……雫、私、水園家にいる蕾花能力者の能力を、全て使えるようになりたいんだが……可能、だろうか?」


「可能ですとも! 水様は凄いですよ! 私が何度やっても治せなかった視力を、一回で治したんですから! 雨水家の特出能力も、氷雪家の特出能力もマスター出来ると思います! あ、すみません、つい熱くなりました。仕事、戻りますね」


 雫は、キラキラとした(まなこ)で私に詰め寄り、興奮を(あら)わにして言った。いつかのプリントで見た通りの、眼鏡無しイケメン雫に圧倒された私は、対応にワンテンポ遅れた。


「……あ、私も行く。手伝う……能力、使えるようになったから、役に立つ筈だ」


「勿論です。ただ、それだけでは、水様のクソでか蕾花には向いていないので、慈雨も会得しましょうね」


「……あぁ、あぁ! もちろん!」


 私は、雫を休ませるという本来の目的も忘れ、雨優(うゆう)さんのもとに向かって行く雫を追いかけた。誰かを癒せるようになった、家族の役に立てる力を手に入れた……それは、逃げたくなっていた気持ちを打ち消すには、とても良い力になったのだった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 慈雨、雨雲など、雨水家の特出能力をあっという間に会得した私は、雫から教えてもらった治癒水と慈雨を同時に使用する事を考えた。常人なら、慈雨は単体でしか使えないらしいが、蕾花力が強大な私なら出来るだろうと思い、やってみることにした。結果的に、目論見(もくろみ)は大成功した。蕾花力の半量を一気に消費したが、怪我人は全快し、荒らされた土地も元通りになった。


 オレンジに染まった空に、粒々(りゅうりゅう)と雨の雫が輝いている。沈んでゆく陽光に照らされて虹色の橋が架かり、皆それぞれの場所で、その虹を見上げている。感嘆(かんたん)の声が、チラホラと耳をかすめていく。そんな中で雫が、いじけたような表情で文句をつけてきた。


「水様……私達が要らなくなるような威力を一回で出せるのなら、もっと早くに会得しておいて欲しかったです」


「えっと、すまない……」


「水様が色々な特出能力を使えるようになれば、青水河の結界も強力になりますし……次は氷雪家の特出能力ですね、明日教えて貰いましょう」


「ああ、そうだな。明日、か……」


 緑木家の脅威は和らいだが、他の家からの攻撃が無くなる訳ではないのだ。豊土家(とよつちけ)は、水園家にとって脅威的な存在だ。土の攻撃から家族を守るためには、まだまだ力が足りない。蕾花の満開……そこまで行けば、家族を満足に護ることが出来るだろうか? 


 もう迷ったりなんかしない。緑木の糞爺のような奴が、五大家のトップなんだ。あんな奴に、水園家を壊されるなんて絶対に嫌だ……何があっても護りきる、一つも溢れ落とさないように、全てを……今度こそ。

 段々と夕闇に染まってゆく空と、消えてゆく虹に、私は決意を新たにしたのだった。

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