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流るる水に終焉を告ぐ  作者: 久成あずれは
本編:現在

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23、嘘のリスト

「やあ、よく来たね、スイ君」


 召喚状に応じて、私は緑木家(みどりぎけ)に来ていた。緑木の糞爺は、にこにことお茶を飲んでいる。彼は私にもお茶を勧めてきたが、何が入っているのか分からないような物を、嫌いな人に勧められて、飲もうと思う人なんていないと思う。


 かれこれ何十分か、ティータイムを続けているのだ。滞在時間が、このままズルズルと伸びてゆくのは断固として避けたいので、こちらから話題を振ることにした。


「……(りょく)様、早速ですが本題に入りましょう?」


「おお、話が早いな……この間は、あんなに(しぶ)っていたくせになぁ……そうだ風呂で話さないか?」


「……何故(なぜ)そんなに、風呂へ誘ってくるのですか? 前回もそうですが……」


 前回含め、しつこく風呂に誘われるので、下らない理由を期待して訊ねてみた。しかし緑糞爺(りょくそじじい)は、予想外の答えを返してきた。


「あぁ――……その服を脱がないか?」


 真顔で、悪びれもなく変態発言をした緑糞爺に、心の底からドン引きした。意味がわからないが、断ることは忘れない。


「……え? は、遠慮させて頂きたく存じます」


「では、力ずくで剥ぎ取ってやろうか」


 丁寧に断ったのにも関わらず、脱がせると言ってくる緑糞爺に嫌悪感(けんおかん)を隠し切れず、顔を(しか)めた。すると緑糞爺は(たの)しげに笑い、再び風呂に誘ってきた。


「はっ……冗談だ。でも、風呂には行こう」


 そう言って緑糞爺は、私を木で縛り上げ、問答無用で風呂に連れて行った。連れて行かれた風呂で再三(たず)ね、ようやくまともな回答を聞き出すことに成功した。


「もう一度(たず)ねさせて頂きますが……何故、しつこく風呂へ誘ってくるのですか?」


「そうだな、儂は……風呂が好きなんだ。この眺めを目に入れるだけで、心が広くなる気がするんだよ」


「そうですか……」


 この眺め……か、この景色の何が良いのだろう。下らないと言ったらそれまでなのだが、割と筋の通った……いや、意味不明な理由だったことに、肩を落とした。


「で、子供を寄越(よこ)す気になったかね? 十人程見繕(みつくろ)って欲しいのだが?」


「……答えは変わりません。何を言われようとも、私は家族を護ります」


「おいおい、そんな言い方するなよ、それじゃあ儂が、君から家族を奪おうとしている悪者みたいじゃあないか……そうだな、これ以上叩いても折れないと言うのなら、妥協点(だきょうてん)を探すか……ふん、リストだ。実物はいらん、リストを寄越せ」


「リスト、ですか……お断りします」


 再度断った私を見据(みすえ)えて、ニヤリと口を歪めた緑糞爺は、言った。


「ふん、深雪……と言ったかな? 今日は居ないみたいだが……この間言っておいたのだよ。君の主人が約束に従わなかったら、君を貰う……とね」


 緑糞爺の発した言葉に、私は目を見開き、息を呑んだ。

 何故緑糞爺が、深雪の名前を知っているんだ? この間、こいつの前で深雪の名前は、一度も呼んでいない筈だが……? 深雪……何もされていなかったんじゃないのかよ。

 私を追い詰めるかのように、緑糞爺は続けた。


「それと、澪。君の幼馴染らしいじゃないか。三人も子供がいるのだろう? そいつらが、どうなっても良いのかね?」


「……分かりました、リストを……書きます……」


 渋々(しぶしぶ)と了承した私に、満足した緑糞爺は、(あなど)るように笑った。


「はっ、そうだ。それで良いのだよ、スイ君」


 本当に緑糞爺は、最低な野郎だ。こいつは私を利用し尽して、水園家を潰す気なんだ……そうだ、嘘のリストを作ろう。奴は、私の何が欲しいのだろうか。奴は直接私に手を下そうとしない、周りの人を脅しの材料に使うだけで、私自身を物理的に攻撃することはしていない。つまりは、嘘がバレたとしても、殺されることは無いのではないだろうか? 

 それなら……家族を護るためなら、一か八かの可能性にかけるしか無い……! 私は勝負に出ることにした。


露草家(つゆくさけ)の末っ子は、ツユノという名前で雷花(らいか)が弱いです」


「そうか」


 緑糞爺は、そう言って頷いた。

 よし、これは行ける……! 緑糞爺は、水園家の花家や領民のことを、詳しく知っているわけでは無いんだ。露草家の末っ子は、艶ちゃんだ。澪が眠っている間に産まれて、澪が避けている次女だ。水園家では割と有名だが、奴は知らない……嘘のリストを作って渡しても、バレない……私は確信した。ただ一つの、これだけの情報で。私は、嘘八百を並べたリストを作り、緑糞爺に渡した。


「ふむ。助かった。それでは、君の親切心に(むく)いるためにも、こちらは最大級のお礼をしなければならないね」


 緑糞爺は、満足したようにリストを眺め、ティーカップを手に取って、お茶を(すす)り、一息ついてから話し始めた。


「本と子供が必要だったのだよ……実験のために。最近叶ったんだ、ずっと前からの夢がね。野原家(のはらけ)を創った。花と自然を(つかさど)る家だ。自然家(しぜんけ)でも、花家(はないえ)でもない、新しい家だ」


「何のためにですか?」


「言ったじゃないか……夢のためだ。緑木家(うち)には、朝顔家(あさがおけ)という花家があってな、儂のとも……幼馴染が創った家なのだよ。そこにな、ある奴が婿入(むこ)入りした。そこまでは良かった……二人は、それはそれは、お似合いで、朝顔家を大家に育てていった。だが、ある日突然片方が死んだ。片方は、その死を受け止めきれずに狂った。優しかった筈の彼は、冷徹(れいてつ)になった。家族を傷つけ、非難(ひなん)して、閉じ込めて……そんな彼を治すため……元通りにしてやりたい。それが儂の夢だ」


「そうなんですか……それが、何故野原家を創ることに繋がるのですか?」


「彼をの狂った原因である彼女を、(よみがえ)らせる必要があるからだ。スイ君の家に有った本には、その方法が記されていた。だから、本を手に入れて、ようやく夢への一歩を踏み出せたのだよ。しかし、本の内容を実行する為には、実験体が必要になった。成功させなけばならないからな、確実に成功する方法を探るために必要だったのだよ、集まった人手から、(すで)に数人が実験体になった……しかしな、大人には適合しなかった……全員死んだ」


「それで子供に手を出したのですか……!」


「それは違う。(みずか)ら立候補してくれたのだよ……朝顔家の娘だった。勿論(もちろん)実験は成功した」


 奴の話し方からして、嘘を吐いている気配は感じられなかった。そこで生じた疑問を投げかけてみる。


「なら、何故水園家(うち)の子供をまだ欲して居るのです?」


 緑糞爺は、なんでもない、あたり前の事を聞かれたかのように、言い放った。


「はっ、何故って? 愚問(ぐもん)だな。実験体は、多い方がいいじゃないか」


 言葉にならなかった。奴は人のことを、使い捨ての布切れか何かだと思っているのだ。私は、そんな奴に家族を売る所だったのだと、改めて思い知った。静かに息を吐き、吸った私は、椅子から立ち上がり、にこりと深い微笑みを緑糞爺に向けて、言った。


「そうでしたか……契約の話は無かったことにして結構です。しかし、そのリストは無償(むしょう)で差し上げますので……金輪際(こんりんざい)、水園家に関わらないで頂きたいのですが、お願いできますでしょうか?」


「はっ……お願い? 自分の立場が理解出来ていないようじゃないか。まあ、別に構わんが……それは約束か?」


「約束です。()()()、破らないで頂きたい」


 意味深長(いみしんちょう)な笑みを浮かべる緑糞爺は、確認するように言った。


「そうか、ただの約束か、契約では無いのだな? 了解した。今直ぐにでも帰るが良い。再び儂の顔を拝むことにならないと良いなぁ、スイ君」


「……ご忠告、痛み入ります。細心の注意を払いますので、そのような事にはなりませんよ……では失礼します」


 終始、緑糞爺への怒りを隠し切れず、笑顔で乗りきることにした。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 逃げるように緑木家から飛び立ち、私は水園領を目指して飛んだ。水園領の氷壁(ひょうへき)が見えてきた頃、氷壁の内側から出て、逃げて行く金属体を見た。氷壁の内側……水園領から、細々とした煙が立っているのを見た私は、急いで水園家に帰った。私を出迎えたのは、雫の慌ただしい報告だった。


「水様! お帰りなさい、大変です」


「分かっている、帰って来た時に見えた。金城家(かねしろけ)の攻撃か? 状況は?」


「はい、金城家の攻撃で間違い無いです。ミミズクが来たので、金城家当主直々の仕掛けです。数分前、キモミミズクが飛んで来ました。その数およそ十体。青水河(せいすいが)の向こう側から氷壁及び、青水河への砲撃を開始し、あっという間に氷壁が破壊されました。氷壁を破壊した後、領を一通り荒らし、水様が帰って来たと同時に退散しました」


「そうか、了解した。この前の襲撃時と同じように対処せよ。私は水の塔で……いや、雫達の手伝いをする」


 私の言ったことが理解できない、といったような表情で呆けた雫は、直ぐに否定に入った。


「……は? いや、無理ですよ。水様は、治癒水(ちゆすい)使えないじゃ無いですか。雨だって、降らしたりできないですよね?」


「……水園家当主なのだから使えるはずだ。教えてくれ」


 どうしてもと、せがむ私に呆れたのか、雫は折れた。


「はぁ……明日教えますので今日のところは、勘弁してください。水様は皆の報告を受け取って、指示を出して下されば良いのですから、居場所が分からなくなると面倒なんですよ。大人しく帰って下さい。蕾花(らいか)もとっくに回復しているでしょう?」


「それは、現場にいると足手纏(あしでまと)い、ということか?」


 私は、いつの間にか卑屈(ひくつ)なことを言っていた。雫は困ったように眉をひそめて、言葉を選んだ。


「……違いますよ。むいてい……適材適所なだけです」


「現場で民を助けることは、私には向いていないと言いたいのか」


 雫が、折角(せっかく)言葉を選んで、わたしが傷つかないようにしてくれたのにも関わらず、言い換えた言葉を、ハッキリと使って言い返した。すると、強めの口調で雫が言い返した。


「本当に面倒臭いですね水様は……あのですね! 全てを救うことは出来ないんですよ! 助かる人と、助からない人が居ます! そんなとこに水様が居たら、全てを救おうとしますよね? 一人一人に対しての思い入れが強過ぎるんですよ水様は! 一か十の選択で、無意識に一を選んでいるのと同じなんですよ? 水様のそれは! ……家族が大事というなら、現場にいることを諦めて下さい……解りましたか」


「……あぁ、解った。教えてくれてありがとう、無理を言ってすまなかった……水の塔に帰る。報告は水鏡を使ってくれ。いざとなったら、水鏡を使ってそちらに向かう」


「了解です……あと……言い過ぎました、すみません」


「気にするな。私も大人気ないことをした……それに、雫は間違っていない。報告、待ってるからな」


 雫は気まずそうに頷き、その場を後にした。


 家に帰った私は、水鏡の間で波紋の無い水鏡に映った自分を、忌々(いまいま)しく思いながら眺めていた。雫の言ったことは、全て間違っていなかった。

 皆んな大事。全部大事。一つも失いたく無い。全部私が護る。そうだ、そんなに都合の良い話は無いに決まっている。この間の襲撃の時だって、何一つ護れやしなかった。云うだけは簡単だ。私は、自分の言ったことに責任を持たず、傷ついた家族を見捨てたんだ。


 自分にもっと力が有れば? 力は十分にあったじゃないか……生まれた時から。努力して、磨かなかったのは自分だ……逃げたのは自分だ。ツケが回ってきたんだ……今迄(いままで)逃げた責任のツケが。

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