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流るる水に終焉を告ぐ  作者: 久成あずれは
本編:現在

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19、謝罪に重なる襲撃

「……襲撃者の消滅を確認。青水河(せいすいが)の補修完了。全員、撤退完了しました」


 雫は眼鏡を外して続けた。


「水様、アレは――」


「水様っ、お気をつけを!」


 振り向くと、背後から氷壁を越えて飛んで来た本体が、矢車家家長(やぐるまけかちょう)に飛び掛かっていた。矢車家家長は瞬時に矢の盾を出現させ、奴の攻撃を防いだ。幾重(いくえ)にも重なり、回転し続ける矢の盾に阻まれた奴は後ろへ飛び退き、いつの間にか出現していた土の塔に乗り、地面へと消えて行った。

 操っていた奴が消えても尚、動き続ける土像に、蕾花能力を使って水をかけた。しばらくすると土像は溶けて、復活した青水河に溶けていった。


「……ひと段落だな……矢車の家長、ご苦労だった。素早い報告のおかげで手遅れにならずに済んだ。では、今後とも宜しく頼む」


「はっ! 了解致しました」


 彼への挨拶を済ませた私は、書類仕事の続きをするために家へ向かった。途中、露草家から出て来る深雪を見かけたので、話しかけた。何度か上空にて名前を呼んだが、気づかない深雪に違和感を覚え、地面に降りて深雪に話しかけた。


「深雪、大丈夫? 何回呼んでも、気づいていないみたいだったから……」


「あ、あぁ、ごめん……流水、お疲れ様。襲撃があったんでしょ? 大変だったね」


「今日は一人なの? 淡雪達は?」


 訊ねられた深雪は、一瞬悲しそうな顔をして俯き、消えそうな声で言った。


「大切なものって……なくなってから気づくものだよね……」


「え? どういうこと……だ」


 回り始めた思考は、思い掛けない声に急停止した。


「流水〜! 深雪!」


「……澪?」


 大きく手を広げたまま走って来て、力強く私と深雪を抱きしめる澪。明らかに様子のおかしい深雪は、一瞬もの凄く恐い目をして、澪と私を抱きしめた。


「流水と澪だけは……私が……この手で……」


「すみませんが、水様には仕事が残っておりますので、お暇させて頂きます」


 二年ぶりの感動的な再会を、あっさりと雫は打ち切った。話し足りないといったような表情で、渋々私と深雪から離れる澪は、おずおずと謝った。


「ごめんなさい、そうですよね……じゃあ流水、また今度」


「……あぁ。また、ね」


 澪は、元気そうに笑顔で手を振って帰って行く。私は、そんな澪の蕾花から目が離せなかった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 執務室に戻った私と雫は、暗い部屋に灯りを灯し、仕事の続きを始めた。


「……ところで雫、報告は?」


「そうでしたね、水様の見たまんまですよ。澪さんは意識が戻り、二年間眠っていたとは思えない程、元気になりました」


「そうじゃない。何故澪は、()()()になったんだ? 何をしたんだ雫……!」


「……やっぱりバレますよね〜。すみません、事故なんです……施術中に蕾花が巻き込まれたんですよ……澪さんの蕾花が、思ったよりも生命力を欲していまして、淡雪(あわゆき)さんと薄雪(うすゆき)さんが吸い込まれ……服しか残りませんでした」


「は……? じゃあ、深雪の言っていた……大切なものって……」


「恐らく、淡雪さんと薄雪さん……双子の事でしょう」


 二人分の蕾花を吸収した澪は果たして、今迄の澪と同じ存在なのだろうか。そんなことを考えた瞬間、扉をノックする音の後に、毎晩この時間に聴く声がした。あぁ、まだ終わってないのに……と私はガッカリした。


「失礼致します。水様、本日の報告書類をお持ちしました」


「……どうぞ」


「先程は誠にありがとうございました。素早く対処して下さったと、父も水様を絶賛しておりました」


「そうか。ありがたいな、また何かあったら、直ぐに報告してくれ」


「はい、そうします。では、失礼しますね」


 にこやかに話す彼女が部屋を出て行った後、私は追加された山盛りの書類に、溜息を吐いた。


「父上のクマが毎日消えない理由が身に染みて分かったよ。毎日毎日減らない書類の山……終わりそうと思ったら追加される……はーあ、眠い……やる事多すぎ……」


「……息抜きに明日、露草家(つゆくさけ)氷雪家(ひょうせつけ)の家長と、遊びに行っては如何(どう)です? 丁度、露草家からの相談が来ていますし」


 そう言って雫は、一番上の書類を持ち上げ、ヒラヒラと振った。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 次の日、私は深雪と一緒に澪を迎えに行った。昨日の書類達は、雫が片付けくれたのだ。合流した深雪は、一人では無かった。昨日は居なかった連れが居たので驚くと、その連れである薄雪、淡雪(うすゆき あわゆき)に似た氷雪家の人は、深雪のことを「兄さん」と呼んだ。深雪は気まずそうに目を背けて「私は、あなたの兄ではないよ」と、本人には聞こえないような声で呟いた。


 薄雪には双子の兄、淡雪が居た。二人して頭が足りず、お馬鹿コンビというレッテルを貼られていた。しかし、薄雪も淡雪も蕾花能力に優れていて、深雪が見込んだだけはあったのだった。

 そっくりな見た目に声も同じ。深雪の蕾花で、片っぽだけ蘇らせたのか……? この間まで薄雪は、体調不良で仕事を休んでいたと聞いたが、昨日は出勤して運悪く澪に吸い込まれた……淡雪は、薄雪を守ろうとして吸い込まれたのだろう。深雪の連れが、淡雪なのか薄雪なのか判断出来なかったので、聞いてみることにした。


「君、名前は?」


淡雪(あわゆき)です!」


 元気ハツラツといったように返事を返す……淡雪。ぱっと見の雰囲気は、薄雪に似ている。二人いた時の彼らは、眼の色が微妙に異なっていた。今の彼は、片方ずつで眼の色が違う。合体したような見た目に戸惑いを憶えつつ、深雪に訊いてみる。


「……深雪、意味が判らないのだが、どういうことだ?」


「……報告書に書いておいた筈だけど、確認してない?」


「ごめん、今回だけは雫に全部任せて来ちゃった……」


「そっか、じゃあ帰った時にでも確認しといてね」


「あ、うん……分かった」


 疲れたような表情の深雪に冷たくあしらわれ、教えてくれないんだ……とモヤモヤとしたが、一応これは仕事だ。と、深雪の前で、つい戻ってしまう口調を正す。

 露草家の近くにある、待ち合わせ場所の丘で数分待つと、澪が来た。


「二人とも! ごめん、僕が頼んだのに待たせちゃって」


「澪は病み上がり? だし、私達が早く来すぎただけだから大丈夫」


「あの、ごめん深雪……僕……氷雪家の二人を……」


「……ううん、気にしないで、澪の方が大事だから」


「……ごめん」


 肩を丸めて、終始申し訳なさそうにしている澪と、慰めるような言葉を掛け続ける深雪の間には、僕に対する時とは違う独特の雰囲気が漂っていたが、そんな二人の間に私は割って入った。


「澪は、今後も露草家の家長として花家やってく?」


「うん。花家の家門は捨てられないよ……今更」


「……そう、だよね……」


 澪は迷いなく即答した。無名家に生まれた澪は、花家の家門を創るのに大変な苦労をしたのだ。顔に落ちる影は、花家を創る時に衝突した両親との約束に対しての影だろう。暗い雰囲気は苦手だからと、雰囲気を変えるために話題をふってみる。


「あのさ、五大家どうなると思う? 私、火陽家からの契約の話、蹴っちゃったっんだよね……それにさ、豊土家っぽい蕾花能力者が攻撃して来たり……この間だって、金城家は結局何が目的であそこに来たんだろうとか……大変なんだよね」


 私を通り越して、空を見つめていた深雪が、ふと空を指さした。


「……流水、あれ何?」


 振り向いて確認してみると、深雪が指差した上空には、人の頭三個分くらいの大きさの草の塊が浮遊していた。

 此方を目指して降下していることに気がついた瞬間、どこかの家からの攻撃かもしれないと思い、蕾花能力を発動させ、水の盾を展開し、水の玉を高速で草球に食らわせた。ツタは、水の玉によって簡単に(ほど)けて中身が溢れ出た。中身は、()だった。自分の盾は、降ってくる土によって一瞬で崩壊した。

 土は……特に蕾花能力で出来ている土は、水園家の民には毒だ。蕾花の性質上、水園家は水を素に蕾花が構成されている。当然、蕾花が発する力も水だ。つまり、土で出来た蕾花に水は濁らされる。土蕾花に攻撃されて傷が出来ると、蕾花が枯れて、死んでしまうことになる。

 土はダメだ、私の盾では足りない……! 澪達を護ることすら、私には出来ない。そう絶望した瞬間……


(つゆ)(かこ)(じも)……(れん)


薄雪刃(うすゆきやいば)


 澪が蕾花能力を使った……初めて見る攻撃技だった。降って来る全ての土の塊を、丸い露玉に閉じ込めて、その露玉に霜を生やして囲うと、すぐさま、それに反応した淡雪がキモ雪達磨を出現させ、全ての霜露玉を切り刻み、深雪は降ってくる土の余粉を氷の盾で弾いた。

 完璧な連携プレーに手も足も出せず、私は呆気なく深雪達に守られてしまった。


「流水、大丈夫?」


「あ、ああ、大丈夫……ありがとう……」


 純な水攻撃しか出来ない自分は、水園家当主でありながら領民よりも弱い。そのため、護られてしまったようだ。

 やはり自分は……弱くて役立たずだ。何も変わっては居なかったのだ。家長になって、色んな仕事をやって、知識が増えても、あの頃と同じで自分は変わっていない。

 そのことに気がつき、唐突に恥ずかしくなった。家長だからと、口調や佇まいを変えて、今迄の自分を否定するように、必死で勉強をしていた自分が……そうか……どうせ、変わらないんだ。


「流水? やっぱり、具合が悪い――」


 心配して私を引き止める深雪に、冷たく言い放つ。


「問題ない! ……私は、やはり駄目なんだ……僕なんかっ……ごめん、帰るね」


「え? 帰っちゃうの、待って……ねぇ、あれ……あんなのあったっけ?」


「どうしたの澪……っ流水!」


 深雪の叫び声と同時に、足元が光った。続けて爆発音が響き、私は吹き飛ばされた。

 地面に衝突した筈だが、痛みを感じなかった。不思議に思い目を開くと、キモ雪達磨が視界に映った。どうやら、淡雪の雪達磨が私を助けてくれたようだ。背中をキモ雪達磨に支えられて、何気なく上空を見上げた。

 目を疑う光景に、身の毛がよだつ。上空には、数えきれない量の草玉があった。先程降って来た物と、同じ物だった。

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