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【完結】追放から始まる『異世界“純愛”物語』  作者: 地獄少年
第九章 悪夢

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第五話 鉄壁の守り神

王城を取り囲む城壁。


その城門の前でパーソロン率いる騎士団はゴドルフィン王国の軍隊と交戦していた。


街と王都を隔てる城門はすでに突破されてしまっていたが、王城へ通じるこの門を突破させるわけにはいかない。


パーソロンは騎士団の先頭に立って、剣を振り続けていた。




「いったい何を考えているんだ……」


パーソロンは彼らが何を考えて正面から攻撃を仕掛けているのか分からなかった。


ただ、何か策を講じているのは確実だ。


敵の目的が気になるところではあったが、今はこの城門を守ることがパーソロンの役目。


「何があっても絶対にここを通さない!」


パーソロンは数百を超える軍勢を前にしても一歩も引くことなく最前線で剣を振り続けた。




剣と剣との戦いならば、数で負けていても全く問題ない。


何人で襲い掛かられても、跳ね除けることが出来た。


だが、後方からの魔法攻撃に手を焼いた。


攻め込んでくる部隊の後方に位置している魔導部隊からは火の魔法を中心とした遠距離攻撃が展開されている。


魔法使いはパーソロンたちを直接攻撃してくる者と、城壁や城門目掛けて放つ者に分かれており、城門の前に位置する騎士団全体が火に包まれる状況だ。


魔導部隊の火の魔法攻撃によって、戦場は灼熱地獄の様相を呈していた。




熱さのあまり騎士団たちの意識が朦朧としていた頃、ようやく支援部隊が到着する。


支援部隊は城壁の上から水魔法を唱え、戦場全体に大量の水を投下した。


初めは水蒸気による熱気と視界の悪さに手を焼いたが、大量の水を投下されたおかげで熱っていた体も冷えてきたしボーッとしていた頭も冴えてきた。


パーソロンたちは勢いを取り戻して、数百の兵に向かって再び激しくぶつかっていった。


火と水が入り乱れる中、剣と剣が激しくぶつかり合う。




城壁前の攻防は、数で劣っているはずの騎士団が徐々に優勢になっていった。






✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎



ゴドルフィン王国の兵は、アンダルシア王国に突撃した際にまず冒険者ギルドを襲った。


城門をくぐって直ぐ左手に位置する冒険者ギルドは格好の標的だと言える。


まだ十分な実力を持っている冒険者は居ないが、彼らも少なからず脅威になりかねないと判断した結果の攻撃だった。




敵部隊の目的は速やかに王城まで突破することだったので、冒険者ギルドの被害はそこまで大きくは無かった。


襲撃を聞きつけたエクリプスは、真っ先に冒険者ギルドへ足を運んでいた。


冒険者ギルドのマスターでもある騎士団の副団長エクリプスは、動ける冒険者たちを集め即席の部隊を編成する。


彼らはまだ兵としては未熟であるため戦場へ駆り出すわけにはいかないので、瓦礫の撤去や民衆の避難など街の復興作業にあたらせることにした。




もちろん、ヒサトモとツキトモの二人も復興作業に参加していた。


ツキトモは剣を握りしめ、彼らを攻撃したい気持ちを抑えきれないでいた。


「落ち着け。今のお前が言ってもアッサリ殺されるだけだ。訓練を受けている兵は魔獣とは比べ物にならない!」


エクリプスがはやるツキトモを宥める。


数十人の冒険者が敵軍の後方から攻撃をすれば、それなりの戦果は得られるだろう。


だが、彼らだって無事では済まないことは目に見えている。


場合によっては全滅だってあり得る。


判断が難しい状況ではあったが、エクリプスは冒険者全員を復興作業に回すことに決めた。






「……あれ、何?」


民衆の避難を誘導していたヒサトモが、城門の向こうに見える大きな火の手を目撃した。


城門の外は国の外である。


わざわざ門の外を攻撃をする理由は無いはずと思われた。




「あっ……!」


ヒサトモは外で何が行われているのか悟った。


彼らは開拓中の農地を焼き払っているのだった。


キルケーが一年がかりで取り組んできた大規模な農地開拓。


キルケーの思いに賛同していたヒサトモは、時間を見つけては開拓作業に参加していた。


少しずつ実を結びはじめていた農地開拓。それが今、全て焼き尽くされている……。




ヒサトモは一人で城門を飛び出した。


「おいっ! ヒサトモ、どこへ行くっ!」


血相を変えて飛び出していったヒサトモを見つけて、ツキトモが止めるために後を追う。




広大な農地はすでに一面が火に包まれていた。


「許さないっ! キルケー様の……キルケー様の……」


ヒサトモは事あるごとに、キルケーの国作りについて話を聞かされていた。


どういう思いで国作りをして、どんな未来を思い描いているのか。


その最初の一歩が商業ギルドの設立と広大な農地開拓だった。


そんなキルケーの思いを踏み躙る行為にヒサトモは我を忘れる。




「おいっ!」


ツキトモが止める間も無く、ヒサトモが巨大な火炎の魔法を放った。


農地に点在していた敵の兵たちは一人残らず火に包まれる。


兵を包んだ巨大な炎は大きな渦を巻いて上昇をはじめた。おそらく風の魔法も併用しているのだろう。


火の魔法と風魔法の併用。今までのヒサトモにここまでの能力は無かった。




ーー極限の怒りに触れて、ヒサトモの眠っていた能力が覚醒した。




”炎の竜巻”によって上空に打ち上げられた兵たちは地面に激しく叩きつけられる。


彼らが地面に落ちると同時に、今度は雷の魔法を放つ。


大きな雷鳴と共に、彼らは激しい雷撃を受けた。


これだけの魔法攻撃を立て続けに喰らって生きている者はいないだろう。


それほどに強力な魔法の連続攻撃だった。




ヒサトモは最後に水の魔法で広大な農場全体を鎮火させた。


火炎による煙と、水魔法による水蒸気とで視界が真っ白になる。


煙の匂い、焦げた匂い、大雨が降った時のような土の匂いが入り混じっていて、二人の鼻を刺激した。


鎮火した農地。今まで元気に育っていた農作物は全て焼き尽くされ灰になっていた。




「……ヒサトモ!?」


こちらを振り返ったヒサトモを見て、ツキトモは身体が震えた。


今まで見たこともない鋭い目。


そして相手を射抜くような目からは大粒の涙が溢れていた。


体は小刻みに震えている。




「絶対に許さない……」


ここに居た者を皆殺しにしても、ヒサトモの怒りはまだ治まっていないようだ。


「おい、落ち着けっ!」


ヒサトモの異常な様子を見て、ツキトモが声を掛ける。


今のヒサトモが戦場へ行けば大きな戦力になるかもしれないと思った。


だが、我を忘れているヒサトモを戦いに参加させるのは危険でもある。


どうするべきかツキトモは悩んだが、どちらにしても今のヒサトモを抑えることは出来なかった。






「落ち着け!」


背後から現れたエクリプスがヒサトモの腕を掴む。


外の異変を聞きつけて、慌ててここにやって来たのだ。


飛び出していった二人を守るために駆けつけたのだが、結果は違った。


エクリプスもヒサトモが放った魔法の威力に驚愕する。


彼女の様子が普通では無いことが見て取れる。


エクリプスはこれ以上彼女を戦いに参加させるのは危険と判断した。


怒りに身を任せて戦い過ぎると、心が壊れる可能性があるからだ。






エクリプスの説得のおかげで、ヒサトモはなんとか自我を取り戻す。


それでも、彼らへの怒りが治ることは無かった。




「私もドラゴンを討伐して、兵になります!」


商業ギルドに登録する予定だったヒサトモが、この戦いで大きな決断を下した。











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