第七話 魔導部隊
「やっと来たか」
リゲルが前方を眺め、合流してきた増援部隊を確認する。
ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる新たな部隊は全員が長い杖を持っていた。
三十名ほどで編成された魔法使いだけの部隊だ。
「くそーっ!」
オーウェンが絶叫しながら全方位に魔法をぶっ放す。
リゲルたち三人を相手にするだけでも後手後手に回っていたのだ。
あれだけの増援部隊が加勢するとなると、こちらが負けるのは火を見るよりも明らかだ。
魔導部隊はまだこちらと距離があるが、魔法を放つには十分な射程圏内に入っていると言っていい。
オーウェンはリゲルたち三人と魔導部隊に向けてなりふり構わずに魔法を放った。
「う……」
オレは何とかして立ちあがろうと試みたが、どうしても体に力が入らない。
動こうとすれば腹部から大量に血が噴き出してくるし、口からも血を吐き出してしまう。
回復魔法を何度も試みるが、ダメだった。
今は意識を保ち、折れたカタナを握り締めることが精一杯。それ以上のことは何も出来ない。体が言うことを聞いてくれなかった。
リゲルは高みの見物を決め込んでいる。
空中からマサヤとオーウェンを見下ろし、トドメを刺すタイミングを見計らっている。
セリーナはこれ以上ない不敵な笑みを浮かべながら二人が悶え苦しむ姿を眺めていた。
「終わりだ!」
リゲルが右手を大きく上げると同時に、魔導部隊が一斉に魔法を放ってきた。
それを見たオーウェンは放たれた魔法に対してガードの魔法を展開し、受け止めることに専念する。
リゲルたちに背を向け、横にいるマサヤは無防備に横たわるだけの状態。
この状況がダメなことは分かっているが、他にどうしようも無かった。
『ドォーーーンッ!』
リゲルたちがトドメを刺そうと身構えた瞬間、三本の大きな火柱が立ち上がり三人を包み込んだ。
「くっ……」
不意打ちを食らったリゲルたちは咄嗟に後退する。
リゲルたちが後退する動きに合わせて、二本目三本目の火柱が彼らを追尾するように立ち上がる。
「なんだ? どこからだ?」
これだけの魔法を展開するとなるとかなりの手練れのはずだが、誰が魔法を放っているのかリゲルは確認できないでいた。
『キィィィーーーッン』
後退しながら周囲を確認するリゲルに背後から斬り掛かってくる者が一人。
リゲルは奇襲を喰らうことなく冷静に剣を受け止める。
「ふんっ。お前か!」
リゲルを背後から奇襲してきたのはエクリプスだった。
彼がアンダルシア王国騎士団の副団長であることはリゲルたちも知っていたし、彼が今現在この国に訪問していることも事前に把握していた。
どこかのタイミングで現れることは想定していたため、慌てることなく奇襲にも対応できた。
それに、エクリプスに圧倒されるほど実力差があるわけでもない。
リゲルはエクリプスに向けて攻撃を仕掛ける。
「くっ……」
エクリプスとの戦闘中も、大きな火柱は容赦無く三人を襲ってくる。
(……この魔法はコイツの仕業じゃないな)
リゲルたちを襲ってくる魔法攻撃もエクリプスの仕業かと思っていたが、どうやら別の者が放つ魔法であると察した。
エクリプスの剣撃を受けながら周囲を見渡す。
マサヤは血を流して倒れたままだし、オーウェンはこちらに背を向けて魔導部隊に対抗している。彼でも無い。
「アイツかっ!」
建物の影から倒れているマサヤに走り寄る者を見つける。
リゲルよりも先に察知したロベルトとセリーナが攻撃を仕掛けた。
セリーナが魔法を放ち、ロベルトが切り掛かる。
後方から魔導部隊も一斉に魔法を放ってきた。
「おっと……」
三方向からの攻撃を交わし、一旦後ろへ下がる。
マサヤを救出しようとした者は、商人のマイリージャンだった。
魔法攻撃でリゲルたちを撹乱しマサヤとオーウェンを救出する手筈だったが、あと一歩のところで阻止された。
ロベルトはそのままオーウェンに剣を振りかざしたが、リーの魔法攻撃によって阻止される。
ロベルトとセリーナはいったん下がり、体制を立て直すしか無かった。
リゲルたちにとっての幸運は、リーが帯剣していないことだった。
彼が帯剣していたなら、今の状況は一気に切り崩されていただろう。
それは同時にマサヤたちの不運でもある。
リーは帯剣していない故に攻めあぐねていた。
魔法攻撃で牽制することはできても、彼らに致命傷を与えることはできない。
エクリプスがリゲルの動きを抑えてくれているが、二人の実力は五分かややエクリプスが劣っている。
とにかく、魔導部隊の攻撃が厄介だった。
相手の大勢を崩せそうになっても、魔導部隊の一斉攻撃で大勢は五分五分に戻されてしまう。
オーウェンが魔導部隊を相手にしてくれているが、三十人の魔法使いを相手にするのは無理がある。
マイリージャンは決め手の無い状況をどう打開するべきか考えを巡らせた。
リーはリゲルたち三人に魔法攻撃を集中し、マサヤとオーウェンに近寄らせないようにする。
エクリプスがリゲルたちに斬り込むが、あと一歩のところで交わされ状況を打開できるまでには至らない。
この調子で攻め続ければ好機も舞い込んでくるのだが、要所要所で魔導部隊からの一斉攻撃が飛んでくる。
この小さな戦場はこう着状態に陥っていた。
(…………)
そんな彼らの戦いをよそに、マサヤは血を流し過ぎたために意識が朦朧とし始めていた。




