第五話 信用
(疲れた……。楽しいけど疲れた……)
大勢の人と会話をするのは本当に久し振りだ。
一年半以上、こんなにワイワイした雰囲気は味わっていなかったはずだ。
ほんの一時間ほどの団欒時間だったが、オレはもう本当に疲れきっていた……。
みんな初対面で緊張していたことも理由だろう。
そろそろ“お開き”にして欲しいと思っていたのだが、オレはソロモンにトドメを刺されることになる。
「ソロモンさん、ちょっと聞きたい事が……」
「“さん”を付けるな、この野郎!!!」
「ひっ、すみませんっ」
ソロモンを“さん付け”で呼んでしまったため、かなりキツめに怒られてしまった。
柔和そうに見えるのだが、予想外のところで目つきが変わる。
慣れるまで大変そうだ。ていうか、もう二度と間違えないようにしないといけないと思った……。
「淡色の髪に変化したということで、オレのことはそれなりに信用してもらえてるということで良いのでしょうか……?」
食後の団欒がお開きになる前に確認しておかなければいけないと思った。
オレはしばらくこのお城で生活することになるだろう。
みなさんが歓迎してくれているのは間違いないのだが、それでも彼らにとってオレはまだまだ赤の他人と変わらない存在なはずだ。
淡色の髪の話を聞く限りぞんざいな扱いを受けることは無さそうだが、なにせ拷問を受けたばかりの身だ。
どう思われているのか知りたいと思った。
「あぁ。心配するな。マサヤのことは信用している。もう疑うことは無いと断言する!」
ソロモンがキッパリと言い切ってくれて、オレは凄く安心する事ができた……のだが……。
「ありがとうございます。そう言って頂けて凄く安心しました。淡色の髪に感謝しておきます……」
「ん!? 淡色の髪は関係ないぞ」
「えっ?」
(どういうことだ? 淡色の髪に変化したからオレのことを信用できると思ったのじゃないのか……?)
ダンジョンで何があったのか想像できたからこそ、オレのことを信用できると言ってもらえたのだと思ったのだが……。
「まぁ、淡色の髪のこともあるのだが……。マサヤを信用できると言った理由はな……」
そう言いながらソロモンはポケットの中をゴソゴソと探り、赤くて四角い物体を取り出した。
「ほら、これじゃ!」
「うぇぇぇぇっ!」
「キャァぁぁっ!」
ポケットから取り出された物を見た瞬間、オレとキルケーは同時に悲鳴をあげてしまった。
ソロモンの右手にはオレのスマホが握られていた。
画面にはダンジョンの出口で撮影したオレたち二人の写真が映し出されている……。
「こんなのを見せられたら、信用するしか無かろう! うっひゃっひゃっ」
ソロモンは最高に楽しそうな笑顔と、最高に下品な笑い声をふり撒いた。
「はぁぁぁ。若いって良いわねぇ」
スマホの写真を見せられたアンジェリーナは、頬に手をやりうっとりとした表情で写真を見つめている。
ダメだ。この家族は最悪だ……。
引きこもり生活の弊害が思わぬところで現れてしまった。
誰にも会わない生活をしていたので、認証ロックを設定していなかった。
つまり、オレのスマホは誰でも自由に操作できる状態なのだ。
スマホの扱い方が分からない人でも、適当に触っていれば簡単にコツは掴めるだろう。
(これが理由だったのか!)
先ほど、ソロモンが妙に意味あり気な笑顔をしていた理由が分かった。
「お父さんっ!」
キルケーが珍しく取り乱しながらソロモンの方へ手を伸ばしている。
顔を真っ赤に染め少々涙目になりながら必死の抵抗をしているが、ソロモンからスマホを取り上げることは叶いそうにない。
「出会ったばかりの男にキルケーがここまで気を許すとなると、マサヤがどれだけ信用できる人間かが分かるという訳じゃ!」
キルケーが伸ばしてくる手をひょいひょいとかわしながら画面を見つめるソロモン。
他人を傷つけることが嫌と言っていたキルケーが、今は本気で攻撃しそうな勢いだ……。
「ホッペだけか? 口は?」
この騒ぎにパーソロンが割って入ってきた。
パーソロンの横で、カディスとヘロドが満更でもないという表情でこちらを見つめている……。
「もうっ! する訳ないでしょっ!」
キルケーがキレ気味に答える。
この家族はいつもこんな感じなのだろうか。
“王族”のイメージがガタガタと崩れていく。
もう、オレの頭の中は真っ白だ……。
「それにしても不思議な道具だな。他の道具は使い方がよく分からなかったが。これは実に不思議だ。瞬時に絵を描くというのは何の魔法なのだ?」
「おそらく複数の魔法を組み合わせなければ無理でしょね……」
オレたちのことは完全に無視して、ソロモンとアンジェリーナが画面を覗き込みながら写真の謎を解き明かそうとしている。
「せっかくだから全員で集まった絵を描いてもらおうか。マサヤ、出来るか?」
ソロモンが家族の集合写真を提案してきた。
それはとても良い提案なんだが、今は素直に受け入れられる気分では無い。
「はい、出来ますけど……。スマホをどこかに固定しなければいけませんね。あと、少し距離を取らないと全員が写るのは無理かと」
自然な会話の中で、オレはなんとかスマホを取り返す事ができた。
これでもう安心だ。
隣でキルケーも胸を撫で下ろしている。
「それでは皆さん、こちらへ集まってください」
オレは日当たりのいい場所を指定してみんなを集めた。
「まずは王族の四人で撮りますか?」
まずは王族だけの家族写真を提案したのだが、ソロモンからまたもや怒られてしまった。
「そんなわけがあるかっ! ここにいる全員の絵だ。マサヤ、お前も加わるんだぞ!」
「え、はいっ。分かりましたっ……」
まだまだ慣れないことだらけなんだけど、どうやらソロモンは誰かに気を遣わせる事が嫌いなようだ。
もしかしたら気心知れた友達のような感覚で接した方が上手くいくのかも知れない。
それにしても、人生で初めて会った“国王”がこんなにも砕けた人だとは思いもよらなかった。
オレはカメラを覗きながら全員が収まるよう立ち位置の指示を出した。
中央の前列にソロモンとアンジェリーナ。
二人の後方にパーソロンとキルケーが立つ。
向かって右側にカディスとヘロドが前後に並び、左側にはフウカとライカが前後に並んだ。
前列の四人は椅子に座ってもらって後ろの人との高さを調整した。
幸いにも食堂は十分に広くて明るかったので、問題なく全員をカメラに収めることができた。
あとはスマホを固定する方法を考えなくてはならないのだが……。
「ん? どうした?」
あーでもない、こーでもないとゴソゴソしていたらソロモンから催促の声を掛けられた。
「いえ、スマホを固定する方法を探しているんです。どこかに固定しておかないとオレも一緒に映る事ができないので……」
「あぁ、そんなことか。早く言え!」
「ひえっ!」
オレの手からスマホが離れたと思ったら、そのままふわふわと宙に浮いた。
「えっ……。どうなってんの……?」
思いもよならぬ出来事にオレは呆然と立ち尽くしてしまった。
「魔法じゃよ。そんなのは風魔法で簡単に浮かす事ができる」
振り向くと、フウカが右手を上げていた。
(たったそれだけの動きで数メートル離れたスマホを浮かせられるのか?)
この世界の魔法は本当に便利すぎる……。
「早くしろ〜」
驚いているオレは再び急かされてしまった。
タイマーをセットしてシャッターボタンを押す。
オレは慌ててみんなの場所へ移動した。
「マサヤはここよ!」
キルケーが隣に来るよう促してくれた。
オレはキルケーとフウカの間に割り込むように立った。
「キルケー、ここではキスはするなよ!」
ソロモンがこの後に及んでまたもやイジってくる……。
「はいはい……」
キルケーはもう、まともに相手をしていないようだ。
世間一般の父と娘はこうやって仲が悪くなっていくのかもしれない。
「あと3秒です。3……2……1……『カシャッ』
何事もなく撮影は成功した。
オレはスマホを取りに行って写真を確認する。
みんな普通に写っているのだが、ソロモンとアンジェリーナだけは若い恋人同士のように寄り添い腕を組んで写っていた。
家族の前でも平気でイチャつくこの夫婦は素直に凄いと思った。
(この夫婦は無敵だな……)
オレとキルケーをイジるだけイジって、自分達は楽しくイチャつくとか我が道を行き過ぎているだろ……。
撮った写真は順番にみんなに見せた。
もちろんだが、みんな喜んでくれたし写真の存在そのものに目を丸くして驚いていた。
キルケーも嬉しそうにしている。
フウカとライカそしてヘロドの三人は相変わらずの無表情だったが、多分喜んでいると思うことにした。
写真撮影の後、この日の団欒はお開きとなった。
キルケーとオレの二人だけの思い出をみんなに暴露されてしまった事は大変ショックだったのだが、それでも今日の団欒は本当に楽しかった。
そして、無茶苦茶疲れた……。
このあとオレは部屋に戻ってもう一眠りさせてもらうことにした。




