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第二話 いきなりラスボス戦!?

視界がハッキリしてきたので、声がした方を見ると三人が体制を低くして身構えていた。


「急げ!!」


さらに、切羽詰まった声が届く。


(……いや、だから、何のことだよ!)


心の中で再びツッコミを入れてしまったまさにその時、足元が大きく揺れて空気がビリビリと震えた!


『グァァァァァァァァ!!!!!』


大きな音がした方を見ると、そこには赤黒くて大きな生き物が立っていた。


「ド、ドラゴン!?」




5メートル? いや10メートル?


首が痛くなるくらい上を見上げたが、“大き過ぎて“そのデカさが分からなかった。


大きな翼に大きなツノ、鋭い牙に長くて太い尻尾が見える。


紛れもなくゲームやアニメで見慣れた“ドラゴン“だ。




「なっ、なんで!?」


突然目の前に現れた巨大モンスターの、そのあまりの大きさに体が震えた。


あらためて自分の体を確認したが、武器や防具なんて無い。


ジャージとジョギングシューズのままである。




(な、何をすれば……、いや、何も出来ない……)


目の前に立ちはだかるドラゴンの姿に圧倒されたオレは、力が抜けて尻もちをついてしまった。


(こんなの、無理だっ……)


「何をやっている! 早く支援魔法を放て!」

「オレたちを見殺しにきたのか?」

「イライラするわね! 先にあなたを殺すわよっ!」


先程の三人が罵声を浴びせてくる。


「ちょっと待って! オレは何も出来ない!!!」


あいつらは何を言っているんだ!?


まずはオレを支援しなきゃダメだろう?




三人に対して不満を募らせていた時、足元の“何か大きな塊“が視界に入った。


(えっ!?)


目の前には少女が倒れていた!


ドラゴンとの戦闘中にもかかわらず、無防備に横たわっている少女の姿はあまりにも“不自然“だった。


「おいっ! この子はどうした? 大丈夫なのか!?」


「お前をこの世界に呼んだのが、その女だ!」

「支援系ってのは、なんでこうも弱いんだ?」

「助っ人を呼んだら戦闘不能なんて、ほんと使えないヤツね!」


(えぇ? 何その言い方は?)


彼らとこの少女は仲間じゃないのだろうか?


あの三人には、ドラゴンを目の前にして倒れているこの少女の事を心配している様子は微塵も感じられない。




「おいっ! 大丈夫か!?」


オレは目の前で倒れていた少女を両腕で抱き抱えてあげた。


息はしているようだ。


目立った外傷は無いようが、オレの呼びかけには反応しない。


召喚魔法か何かを使ってオレをこの世界に呼び寄せた結果、魔力でも尽きてしまったのだろうか?




「三人同時に行くぞ!!!」


「これでも喰らえっ!」

「死にさらせ、このボケっ!!」

「さっさと、死になさい!」


二人の男がそれぞれ手にしていた武器で攻撃をしかけ、最後に残りの女性が派手な魔法をぶっ放した!


『ドスゥゥゥゥゥゥッン』


なんと、あの大きなドラゴンがいとも簡単に倒れた!


『グァァァァァァァァ!!!!!』


(苦しんでいるのか?)


ドラゴンは体と尻尾を大きく動かしながら悲鳴のような咆哮をあげる!


(なんだコイツら。むちゃくちゃ強ぇじゃねえか! このままいけば、倒せるんじゃないのか?)


オレは目の前で繰り広げられている戦闘に見惚れ、三人の強さに驚愕した。






「……なさい」


(ん!?)


「……ごめんな……さい」


両腕で抱えていた少女が、消え入るような声で話しかけてきた。


「ごめんなさい……。あなたをこの世界に呼び出したのは……、私です……」


少女の小さな右手が、オレの腕を弱々しく掴む。


「大丈夫。キミはそのまま休んでいて! 今、あの三人がドラゴンを圧倒しているから!!!」


「……ハァ……ハァ……ハァ……」


苦しそうに息をしながら少女は話を続けてきた。


「今の私たちは……力不足なんです」


(え? 力不足?)




「……このままでは、私たちは確実に全滅します……」


(え? 全滅!?)


三人がドラゴンを圧倒しているのに、この少女は全滅すると言っている。


そこまで実力差があるようには見えないのだが……。


「……ハァ……ハァ……ハァ……」


「あなたが……あなただけが……最後の望みなのです」


(え!? オレが頼り?)




この世界に転移してきたばかりで右も左も分からないオレが“最後の望み“と言われても、何のことだかサッパリ理解できなかった。


オレから言わせて貰えば、戦闘中の三人こそが“最後の望み“だ。


小さくて弱々しい少女の手に、ほんの少しだけ力が入るのが分かった。


「……だから……たすけて……」


(たすけて?)




ジョギング中、頭の中に入ってきた“少女の声“だ!


あの時に聞こえた“声“は、この少女の切実な願いだったと言うことか?


切実な願いと共に、オレをこの世界に召喚させたということか?


少女の大きな瞳からは「贖罪」と「懇願」の意思がハッキリと読み取れる。


目に涙をためながら必死に耐えているように見える。


「わ、分かった!」




オレは我を忘れていた。


大きなドラゴンを目の当たりにしてパニックになっていた。


心が折れて絶望し、三人の攻撃に望みを託し、オレはいつの間にか“傍観者“となっていた。


異世界に転移してきて、まだ数分しか経っていないはず。


そのわずか数分で、オレは目の前の“現実“から逃げていたのかもしれない。


せっかく異世界に来たのに、今までの引きこもり人生と同じ道を歩もうとしていた。


そう。オレは“逃げること“が当たり前になっていたのだ。


異世界に来たから人生が変わるわけじゃない。


“生き方“を変えなければ人生は変わらない。


逃げるだけの生き方では、引きこもり生活と変わらない。




「ありがとう。キミのおかげで、少しだけ冷静さを取り戻せたよ。」


「………」


オレの言葉を聞いて安心したのだろうか?


少女は小さく微笑んで静かに目を閉じた。




オレに何ができるのだろうか?


まだ何も分からない。


いや、目の前には大きなドラゴンがいる。


ゆっくり何かを考えている余裕なんか無い。


そうだ。こうなってしまったら、もう開き直るしかないのだから。


少女を静かに寝かせて、力強く立ち上がった。


戦闘中の三人に聞こえるように、オレは大きな声で叫んだ。




「状況を、確認する!!!」











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