プレイ時間:48時間〜
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夜、19時過ぎにデギオンと待ち合わせていたので、僕はログインして、ラーメン屋を視界に収めた。
すでにデギオンが待っていて、珍しくラーメンをすすっていた。
「どこか行くんですか?」
そうテキストを打つのと同時に「お前もどうだ」と声があった。タイミングのズレを修正するために僕が黙っていると、デギオンのアバターがラーメンを食べながらしゃべる。
「少し体を動かしたくてな。70層あたりに行ってみる」
70層。
僕にはとても踏み込めない領域だ。
「こいつを渡しておく」
そう言って彼のアバターが顎をしゃくると、目の前に鎧一式が現れた。
名前は「真銀鎧アラバスクード」とある。ステータスをすぐにチェックすると、使用できる最低レベルは25になっている。
そのことを指摘しようとすると、デギオンが解説してくれる。
「全部を身につけると、25は必要だ。しかし軽鎧として使用して、ギリギリまで防御範囲を狭めれば、15でも装着できる。やってみろ」
半信半疑で鎧を一度、受け取って、ああでもないこうでもないと加減していくと、最後には言われた通りになった。
鎧を身につける。身につけていない他の部分は、携行の欄に追加した。
「入学式だって言っていただろ、その記念だ。おめでとう」
どういう言葉を返すのが正しいか、すぐにはわからず、「ありがとうございます」とどうにかテキストを入力した。
「ああだこうだと、口出ししたくなってたまらんな」
ぼやくような声が返ってくる。
「どんな風に遊ぶかも、楽しむのかも、自由なのにな」
やっぱり僕は即答できず、こんな時に気の利いたジョークでも言えればいいのに、と悔しい思いを噛みしめた。
「俺の手助けは余計かな」
ちょうどずるずるとデギオンのアバターがラーメンの最後の汁を飲み干した。
「デギオンさんのことは、師匠だと思っています」
そう入力すると、デギオンはすぐに答えなかった。
ありがとな、と小さな声がして、デギオンが席を立った。
「約束をしようじゃないか、ハルハロン」
デギオンがこちらを見る。
彼はアバターに笑みを作らせた。
爽やかな笑みだ。
「お前のレベルが25になるまで、俺はお前に関わる。それから先は自由にやれよ」
そんな、と思った。
尊敬している。慕ってもいる。
まだ、導いて欲しい。
そんな思いが溢れて、うまくテキストを入力できなかった。
「いつかは独り立ちするものだぞ、坊や」
そんな言葉を残して、デギオンは店を出て行った。
僕はどうすることもできず、彼の背中が消えても、動けなかった。
独り立ち。
僕が彼に頼りすぎたのか。
何かを求めすぎたのか。
後悔より前の困惑は、なかなか、心の中で静まらなかった。
(続く)




