四月三日(金曜日) (2)
四月三日(金曜日) (2)
自己紹介はバタバタだった。
慣れていないし、何を言えばいいかもわからない。
それでも無難に僕はこなした、つもりだ。
趣味は読書です、と口にした時、隣の男子がこちらを見上げてきた。
その男子は小宮裕也と自己紹介した。冗談でもない様子で、「本が好きです」とだけ言って、あとは「よろしくお願いします」とボソボソと言っただけ。
他のクラスメイトで目立っていたのは、例の双子の女子と、脇坂くんだ。
「桂木朝子と言います。3組に妹がいます。双子です。見分けがつかないかもしれませんが、この教室にいるのは基本的に私の予定です」
くすくすと笑い声が広がる。
彼女、桂木さんは穏やかな笑みを見せて、頭を下げて席に戻った。
脇坂くんは、堂々としたものだ。
「脇坂太一でーす。髪の毛は黒になりましたが、その代わりにこんなに伸びてしまいました。趣味は喧嘩、特技は借りパクです。好きなアニメは「紅の豚」で、好きな漫画は「花より団子」、好きなドラマは「半沢直樹」と「古畑任三郎」、好きな大河ドラマは「龍馬伝」、好きな歌手はビートルズ、好きな女優はオードリー・ヘップバーン、それと……」
そこまで言ったところで山崎先生が止めた。
髪の毛をいじるのは程々にしろよ、というのが先生からの指摘で、どうやら長髪には目を瞑る、と言っているようだ。
脇坂くんが最後なので、それから月曜日の予定が説明され、本格的な授業は火曜日からだ。
月曜日には新入生歓迎会と部活説明会がある。
部活か。
あまり興味もないので、何にも入るつもりはなかった。
解散になり、僕が席を立とうとすると、高木くんがやってきた。
「お昼ご飯をどこかで食べない?」
こういう誘いができるあたり、彼は僕なんかより、よっぽど人間ができている。
了承して、僕は母さんに電話をした。先に帰って欲しいというと、お店まで送っていくと言ってくれた。優しいのだ。
そのことを高木くんに言うと、彼は嬉しそうに、ご厚意に甘えます、と変に堅苦しい言葉で応じた。
母さんに昇降口で高木くんを紹介すると、母さんは遠慮もなく「柔道でもやっていそうね」と口走った。
遠慮がない人格である。
そんな直球の質問に慣れているのか、それとも精神的に落ち着いているのか、高木くんは平然と答えた。
「中学校ではやっていましたけど、高校ではやらないつもりです」
いい体格なのにねぇ、などと母さんが言っているうちに、三人で校庭の車にたどりつき、僕と高木くんは並んで後部座席に乗ったのだった。
(続く)




