四月三日(金曜日) (1)
四月三日(金曜日) (1)
朝食の後、制服を着て、鏡の前でネクタイを何度か確認した。
オーケー、新しい僕が出来上がった。
一階へ降りると両親が待っていた。父さんは仕事で、母さんが式に出席する。秋穂はまだ寝ているらしい。中学校は来週からである。
「帰ってきたら、プレゼントをやるよ」
父さんはそう言って僕の肩を叩き、しっかりな、と不器用にウインクした。
母さんの運転する車で一緒に大洋高校まで行った。この日は校庭が駐車場として使われている。
昇降口で母さんと別れて、僕は一人で教室に向かった。
廊下にまでそれぞれの教室からの喧騒が漏れてくる。
それを聞くと、少し怖くもある。僕のことを誰かが笑い者にしている、そんな幻想が、心をジアジワと侵食してくる。
そんなことはない。
ありえない。
でも、本当に?
僕は自分の教室、1年2組の教室に入った。
教室の中には半分くらいの生徒がいて、こちらを見るのも一瞬で、一人に戻ったり、誰かと話すのに戻ったりする。
ちょっと俯いて、僕は自分の席に座った。
なんとなく落ち着かなくて、ネクタイをいじった。それで落ち着くものでもないけど。
隣の席にはどこか陰鬱とした雰囲気の男子がいて、前のガイダンスの時と同じように、本を読んでいる。
そうか、僕も本でも持って来ればよかった。
話しかけることもできずに横目で彼を見ていると、ドアが開く音がして、足跡が続く。
そちらを見ると体格の良い男子が机の間を抜けてきて、僕に気づくと無言で大きな手をさっと揚げた。
名前は、高木清太郎、だ。
僕は黙って頭を下げた。
彼は自分の席に座ると、姿勢正しくまっすぐに前を見ている。
ああいうやり方もあるのか。
僕はクラスを確認した。
例の双子の女子の一人は、似た雰囲気、華やかな見た目の女子二人と三人で顔を合わせて笑いあっている。同じ中学の出身かもしれない。
例の金髪の男子はいるのかな、とさりげなく探すと、その男子はいたけど、髪の毛は金色ではない。
しかし長髪に変わっていた。
一週間で伸びるような長さではない。エクステ、という奴かもしれない。
あの男子の名前は、脇坂太一、だったよな。
先生が早速、目をつけそうだ。
それからの10分でおおよそ全員が揃い、そこへ山崎淳也先生が入ってきた。
「ほら、席につけ。短い時間だ」
先生の言葉に生徒がそれぞれの席に戻り、シンとする。
山崎先生は最初に脇坂くんを確認したようだけど、彼に関しては何も言わなかった。
入学式の段取りを説明して、もう時間もないようで、廊下に整列した。
男女が混ざっていて、僕の前は女子で、後ろは男子だ。どちらも話しかけてこないから名前を知ることもできない。いつかは分かることだけど。
入学式はつつがなく終わった。
問題は教室に戻ってからの、自己紹介だった。
(続く)




