三月二十九日(日曜日) (1)
三月二十九日(日曜日) (1)
朝、目が覚めて、時計を確認すると七時だった。
一階へ降りると、食卓で父さんが新聞を読み、母さんはまだ料理をしていた。秋穂の姿はない。
「あまりゲームに熱を入れるなよ」
新聞から顔を上げて席に着いた僕に父さんが言う。
「勉強が第一だからな。あとはスポーツ。三つ目がやっと趣味だ」
「努力するよ」
「まぁ、趣味に生きるのも一つの生き方ではある」
ニヤッと笑いながら、父さんが新聞を折りたたむ。
それからWTCに関して質問攻めにあった。父さんとしても、興味があるらしい。
僕はうまく説明できないけれど、過去の名作ゲームとか、そういうものを引き合いに出して、解説した。
仲間を作るのが目的みたいなもの、というと、時代は変わったな、と父さんが嬉しそうに言う。
「昔は限られた世界としか、交流を持てなかったよ。新しい時代が来たんだな」
「ネットのお友達って、よく分からないわ」
料理の乗った皿を母さんがテーブルに運んでくる。
「信用できるのかしらね。それとも、付かず離れず、みたいに接するわけ?」
難しい質問だった。
実際のところ、僕はデギオンとアカリアを相当、信用しているし、信頼している。まるで仔鴨が親鴨の後をついていくように行動している自分がいるのだ。
あの二人に裏切られることはないと思う。
僕がよっぽど間違ったことをするか、裏切らない限りは。
そういうことをしたら、きっと彼らは新月騎士団を抜けた時のように、僕の前から姿を消すだろう。
「今のところ」
僕は紅茶の入ったマグカップを両手で包み込んで、答えた。
「信用できる友達がいる。顔も名前も知らないけど」
両手に伝わってくる紅茶の温もりは、TWCには存在しない。全てがデータの上でのことだからだ。
でもデギオンとアカリアと話すとき、僕の心は確かな温もりを感じるのだ。
心が、暖かくなる。
「いい時代だよ、今は」
そう言って父さんはまた新聞を手に取った。
母さんが秋穂を呼びに行き、四人が揃ってから食事が始まった。
食事が終わり、僕は自分の部屋に戻って、どうするべきか、少し迷った。
TWCにログインしてもいいけど、何か、別の有意義な休日の使い方がある気がした。
そうだ、高木くんのおじいさんがやっているコンビニまで行ってみるか。
別に彼に会いたいわけではないし、まだ親しいとは言えないけど、友達というものを欲しがっている自分がいるらしい。
データや通信の向こうにいる誰かではなく、実際の目の前にいる誰かを。
可愛い女の子の知り合いでもいればなぁ。
真澄がいるけど、彼女とはあまり、積極的に会いたい感じではない、な。
(続く)




