プレイ時間:1.5時間〜
プレイ時間:1.5時間〜
僕はここからどうなるか気になって、プレイを切り上げず、草原に誰かがやってこないか、眺めていた。
どうせログアウトしても、六時間はプレイできないわけだし、たまたまやってきたどこかの誰かが、気を使ってくれて回復してくれるかもしれない。
TWCにも死者蘇生を可能にするアイテムはあるけど、死者蘇生の効果は自分自身には使えない。死んでいる状態ではアイテムは何も使えないからだ。
自分のアバターが倒れているのを横目に、今だけは三人称視点のカメラで、ぐるぐると回りを眺める。
思っていたよりもTWCの世界は綺麗なグラフィックをしている。草が風になびく描写はまるで僕自身にも風が吹いているようにも思えた。
梢が揺れる。
世界樹の中にいるのに太陽がちゃんとあり、燦々と日光が差していた。
と、遠くに歩いているプレイヤーの三人組が見えた。全員が意外にしっかりした装備をしている。何をしているのだろう?
観察していると草むらをかき分けて、何かを探している。
ピンときたのは、アイテムを探しているのだろう、という可能性だ。
TWCの遊び方の一つで、戦闘ではなく、商売というものがある。
世界樹の内部で手に入れる様々な素材アイテムは、技能のあるものの手でアイテムに変わる。
あの人たちは草をより分けて探しているから、回復系のアイテムの材料になる草を探しているらしいと見当がつく。
僕のことに気づくようでもなかったのが、幸運にも一人がこちらへやってきた。僕が倒れているのに気づいて一瞬、アバターが動きを止める。
「ビギナーかい?」
背丈はそれほどないが、黒い髪をして、どこか渋い顔の作りをした男性プレイヤーが、音声で呼びかけてくる。
テキストでは通信不能なので、事前に設定されている音声を選択し、ボタンを押し込んだ。
「助けて!」
どこか線が細い少年の声を模した電子音声が叫ぶ。
その一言に、目の前の男性プレイヤーが失笑したのが、音でわかる。
「君を助ける理由はないな。あまり金に余裕もなくてね」
そんな言葉を残して、プレイヤーはどこかへ行ってしまった。
怒りが湧きそうなものだけど、確かに初対面の死んでいるビギナーを助ける理由がないので、僕はちょっとがっかりして、次に誰かがやってくるのを待った。
待ったけど、一時間が経過しても誰もやってこなかった。
画面にメッセージが表示され、「戦死しました。次のプレイ可能時間まで五時間です」とそこにはあった。
初日の初回なんだから、こんなものだろう。
なぜかこれから、楽しくプレイできそうな気がする。
画面がトップページに戻り、一度、ハルハロンのアバターを確認して、目元からヘッドギアごとスマートフォンを外した。
(続く)