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三月十八日(火曜日)

三月十八日(火曜日)



 完全に寝坊して、気づくと十一時を過ぎていた。

 朝食をどうしよう、と思いながら部屋を出る。一階へ降りると朝食がそのままになり、テーブルに近づくと一枚のメモがあるのに気づいた。

「秋穂とお昼ご飯を食べに行きます」

 あー、失敗したな、こんな仕打ちを受けるとは。

 冷めている朝ごはんを電子レンジで温め直して、テレビをつけて昼のニュースを見ながら、この日初めての食事を一人で摂る。

 どうもここ数日、時間の流れが曖昧で、それはTWCに熱中しすぎて日常のリズムが乱れ始めているらしい。

 食事を終えて、ちょっと散歩にでも行こうかな、という気になった。日の光を浴びたいし、ついでに言えば、気分を切り替えたい。

 身支度を整えて、服装も一応、外へ着ていけるものを選ぶ。

 中学校に入学した時から休日以外は制服で事足りたし、高校に入学しても制服があるわけで、私服はますます冴えなくなる未来が見える。

 ユニクロ、G.U、そればっかりになるかも。

 結局、我ながら野暮ったいダッフルコートで身を包んだので、服はほとんど隠れている。

 外へ出て、住宅街の平凡な光景で、しかし空気が冷え込んでいるので、この時期特有の肌を刺すような感覚がある。息が白く染まり、すぐに消えた。

 道端から雪は消えていた。前に降ったのはもう半月は前か。

 食事は済ませたし、雑誌でも漁りに行くことにして、近所の個人書店へ向かった。

 向かったものの、店に入ろうとすると、同じくらいの年頃の少年四人が店先の週刊誌のコーナーで騒いでいる。

 何か嫌な予感がするのは、そのうちの一番背の高い一人が、髪の毛を金髪にしていることだ。

 明らかに春休みの自由を謳歌している。

 こういうタイプが僕はあまり得意ではない。さすがに中学校で髪の毛を染める生徒はいなかったけど、制服を変な風に着ている人たちですら、どうも馴染めなかったものだ。

 進学する大洋高校が少しはマシだといいんだけど。学校見学の時は、大丈夫そうだったから、それを信じるよりない。

 書店の前を素通りして、仕方なく家から三番目に近いコンビニに入る。

「いらっしゃいませ」

 そう言ったのは店員、に見えるけど、制服を着ていない。エプロンをつけているから店員だろうけど、名札もない。何より若いというより幼い。体格はびっくりするほどがっちりしているのに、顔の作りは大人のそれじゃない。

 細い目が更に細められて、こちらを見て、視線がぶつかる。

 こちらから外して、雑誌コーナーで「ウェブ2」の最新号を探したけど、置いていなかった。

 今日もどうやら厄日らしい。しかも TWCの中ではなく、現実で。

 仕方なく野菜ジュースを買って店を出た。会計は例の大柄な少年ではなく、大人の店員さんがしてくれた。少年の姿はもう消えていたのだ。どうやら一時的な店番だったらしい。

 外に出て、野菜ジュースのパックにストローを差しながら、家に帰ることにした。



(続く)

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