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七月二十八日(火曜日) (2)

七月二十八日(火曜日) (2)



 どうにもTWCに没頭しすぎたようで、自分の頭の巡りがどこか強張っている感じがあった。

 というわけで朝食の後、ラフな運動着に着替えて歩きに出た。

 まだ八時過ぎなのに日差しが暴力的だ。キャップをかぶっているけど、頭が熱い。

 自然と木陰から木陰で移動するようなふらふらした歩き方で、先へ進んだ。

 目的地は特にない。

 脇坂くんが店番をしていた書店の前を抜ける。高木くんの親類が経営しているコンビニの前も抜ける。 

 駅前とは逆方向へ向かうと、そちらには丘があるので道路に傾斜ができる。

 このまま進むと真澄が家族と住んでいる家がある。

 別に会いたいわけでもなく、知っている道を選んだらこうなってしまった。

 仕方ないな。元来た道を戻るか。

 百八十度方向転換して、今度は緩い坂を下りていく。

 自分が上がってきた坂を振り返って上から下に見てみると、結構、いい光景だった。

「おい、織田、織田だよな?」

 見知らぬ家から出てきて自転車をこぎ出そうとした少年が、こちらにそんなことを言った。それまでまったく意識していなかったので、やっと誰かを確認した。

 三谷だ。中学校の時の同級生である。

 半年ぶりに会ったが、彼はまったく変わっていない。

 外観も、そして人格も。

「大洋だってな。お前みたいな間抜けののろまにはお似合いだよ」

 僕は立ち尽くして、無言でペラペラしゃべる彼を見てた。

 三谷はニタニタと、悪意を笑みの形にしている。

「そのままどこの誰ともわからないまま、消えてくれよ。俺たちが同窓会で笑い話にしてやるから」

 怒り、はやってこなかった。

 哀れみの方が、強かった。

 高校生にもなって、比較的いい学校に通っていても、くだらない人間はくだらないままなのだ。

 きっとそのまま大人になって、誰かを傷つけて、潰して、満足して、自分の身は守って、生きていくんだろう。

 それが彼の正直な生き方。

 僕が求める生き方とは違うだけだ。

 僕はどこの誰にもなれなくてもいい。

 僕は僕だし、僕でいられればいい。

 そして僕は、三谷の前にいる自分のままではいたくないだけだ。

「きみが」

 言葉が自然と出た。彼に声を向けるのは、いつぶりかはわからない。

「四葉を落第になって、笑い話になると僕は嬉しい」

 一瞬で、三谷の表情が強張った。

「まぁ、僕は同窓会にはいかないから、笑えないのが残念だよ」

 憤怒の形相、というのはこういうのをいうんだろうな、と僕は三谷を見ながら他人事のようにs思った。

 殺すぞ、と低い声が彼の口から漏れる。その程度の恫喝しかできないのだ。

「君が僕を殺せば、君は破滅する。例えば、家族ももろともにね。そして友人は誰もいなくなる。それでもいいわけ?」

 こんなに自分が喋れるとは思わなかった。

「本気だぜ」

 三谷のどすの利いた声は、しかし全く僕には響かなかった。

「日本語が通じないらしい」

 そうやり返して、僕は歩き始めた。

 背後から事故を装って自転車で轢かれるかと思ったが、怒りを隠そうともせずにすぐ横を三谷が自転車で走り抜けて追い越して行った。

 僕は家に帰ってため息をつき、何も言っていないのに母さんに心配された。

 そのの日の夜、僕のスマートフォンに電話がかかってきた。



(続く)

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