七月二十八日(火曜日) (1)
七月二十八日(火曜日) (1)
朝、目が覚めた時、真っ先に聞こえてきたのはラジオ体操の音だった。
庭の方からするので部屋の窓を開けて下を見ると、携帯ラジオで音を流しながら、秋穂が一人でラジオ体操をしている。
生放送なら、六時半だろうか。
部屋の壁掛け時計を確認すると、本当に六時半だった。
どうりで眠いわけだ。
昨日の夜、日付が変わる寸前までTWCに打ち込んで、それでもどうにかベッドに移動した記憶がある。
睡眠時間が6時間というのは、僕の感覚からすればそれほど短くもないけれど、毎日のリズム、規則性みたいなものがずれているのはしんどい。
僕も早起きしてラジオ体操をする、とは思えないけど。
朝の風の心地よさの中でラジオ体操の音声が終わり、秋穂がスイッチを切った。
「現実に帰って来なよ、兄貴」
下からの声に目をやると、秋穂がからかう表情でそこにいる。僕は無意識に、空に目を向けていた。恥ずかしい。
「そんな達観した様子で空を見ていると、まるでお爺ちゃんみたい」
「たまにはささやかな幸福を理解しようとしただけだけど」
「そういうのも年寄りくさいわね」
この少女は成長しても、決して老人介護などしないだろうな、と思った。
そしてきっと、70になっても80になっても、今のように強気だろう。
母さんも庭に出てきて「ご飯よ」と控えめな声で言う。
僕は寝間着のまま一階に降りて、父さんはすでに食事の最中だった。
「僕も長い休みが欲しいよ」
父さんがこちらを見て、どこか悲し気に言う。ただ、演技していることを見抜けない僕でもない。
父さんは一年を通して、長い休みを取るのはお盆の時と年末年始で、他ではばらばらに休みを取って連休を作っていない。
仕事柄もあるようだけど、父さんはポツンとある一日だけの休みに様々なことを詰め込むので、僕の観察では仕事へ行くよりも休みに遊びに行くことの方が、大変に見える。
でも父さんなりのポリシーがあるとも思う。
長い休みに癒される人もいれば、ここぞという時の一日で、何かが癒される人もいるってことだろう。
父さんは僕に高校の夏休みの課題を確認し、僕は問題なくこなしているので、そのことには父さんは満足げだ。
「東京旅行っていつだったかな」
えっと、とカレンダーを見る。こうしてカレンダーを見ないと日付が分からないのが、長期休暇の悪い影響だ。
三十一日だから、あと四日か。
「羨ましいなぁ。大人になると出張で行くくらいで、遊んでいる暇がない」
「父さんは大人だからね」
「そういうことを言われるあたり、僕も人徳がないのかなぁ」
父さんに人徳がないということは絶対にない。
僕が知っている中から、一番のお手本になる大人が、父さんなのだ。
食事を終えて父さんは背広に着替えて、かあさんに見送られて出勤していった。
僕は食卓でテレビを見ながら、ゆっくりとお茶を飲んでいる。秋穂も同じようにしてた。
母さんが食器を洗うささやかな水音。
穏やかで平和な世界じゃないか。
(続く)




