表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
162/365

七月二十六日(日曜日) (2)

七月二十六日(日曜日) (2)




 スマートフォンを耳に押し当てて呼び出し音を聞く。

 すでに3回目。切るか。

 耳元から離そうとした時、呼び出し音が途切れた。

「もしもし? 何?」

 真澄の声が流れてくる。

「ちょっとした臨時収入があって」

 そこまで言って、あまりの説明の雑さに自分でも呆れたけど、押し切るよりない。

「少し話をしようかと」

 言い切ってから、前に真澄と会った時は、どこか険悪な雰囲気で別れたんだと思い出した。

「謝罪も込めて」

 余計な言葉かも、と思ったけど、どうにか声にした。

 沈黙の後、「チョコレート・パラダイス」という声がした。

 思わず僕がうめくと「いや?」という追い打ちがくる。

 もう覚悟を決めるしかない。

「いいよ、チョコパね。いつ?」

「今日よ。16時には終わるから、16時半に駅前ね。南口」

 もうどうとでもなれという思いで、「了解。待っている」と告げて、おざなりな別れの言葉を交わして通話を切った。

 こうなると雑な服装で行くわけにもいかない。

 休みなので髭剃りをサボっていたから、電気シェーバーで髭を剃るところから始める。髪型には特にこだわりがないけど、だいぶ伸びている。こんなことなら、切っておけばよかった。

 服装も選ぶ必要がある。あまり目立たず、しかし周りから浮かないように。

 あっという間に時間が過ぎ、14時になった。駅まで自転車で行って、駐輪場に停め、待ち合わせ場所へ行くことを全て考えれば、家を出るのは15時半過ぎ。

 この1時間半でTWCをやりたい衝動に駆られたけど、一度、ログインすれば、もう1時間半で済ませる自信がない。

 忍耐力を総動員して、スマートフォンを遠くへ置いておいた。

 この後、真澄と会えばまた別種の忍耐力が必要になるけれど、出し惜しみは無しだ。

 ベッドの上で本を読んで、時間に合わせて身支度を整え、一階へ降りる。

「出かけてくるから」

 そう母さんに声をかけると、リビングのソファで数独を解いていた母さんがこちらを振り返る。

「頑張りなさい、私のパダワン」

「それ、もう通じないジョークだよ」

 ジェダイ・マスターは肩をすくめただけだった。

 玄関で靴を履いていると、秋穂が塾だか部活だかから帰ってきた。

「何? これから出かけるの? 兄貴」

「ちょっとそこまでな。夕食を僕の分まで食べておくように」

 本当に食べちゃおうかな、と真剣な口調で言う妹とすれ違い、僕は自転車で駅へ向かった。

 十六時を過ぎているので、少しは涼しいけれど西日は強烈だ。

 駐輪場に自転車を置いて、南口へ足早に行く。

 待ち合わせで多用される場所なので、他にも何人か、十代の学生風の男女が立ち尽くしている。何人かは家族が車で迎えに来るのを待っているような雰囲気だ。

 おおよその等間隔で並ぶ彼らの空いているスペースに立っていると、ロータリーの向こうに真澄が見えた。

 彼女もこちらに気づいて手を挙げる。

 僕も手を挙げ返して、そちらへ歩き出した。

 これから、久しぶりに限界ギリギリの忍耐力が必要になる。

 気合いを入れるために、一度、無意味に強く息を吐いた。




(続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ