プレイ時間:111.5時間〜
プレイ時間:111.5時間〜
真澄と秋穂に付き合っていたら夕方になっていて、すぐに夕飯、お風呂と忙しく、TWCにログインできたのは21時過ぎだった。
第13層の街頭にログインし、閑散として乾いた風が吹き抜ける町並みを抜けた先にはアッソンの店だ。
店内も閑散としている。
「どうも、アッソン」
声をかけると、何かに集中していた修繕職人が顔を上げる。
「ハルハロン。用意は出来ているよ」
彼がさっと手を振ると、大槌イグナートが僕の前へやってくる。
触れてみるとステータスが表示され、耐久度は全回復されていた。
「噂の続報があるかな」
さりげなく確認すると、あんたも気にするんだな、とアッソンが手を止めた。何かの鎧を繕っている途中なのが見えた。
「新月騎士団の連中は、今のところ、踏み込むことができないでいるようだな。例の最初のパーティメンバー限定の条件がクリアできない」
「例えば、下部組織のプレイヤーと新しくパーティを組んでもかい?」
「そこが巧妙なんだな」
他人事だと思っているのだろう。アッソンは楽しそうにしゃべる。
「過去に共闘したプレイヤーが除外されている。新月騎士団は第98層をクリアするときに、大軍勢を組織してボスを攻略した。あの時のログが残っているんだろうな」
第98層は有名なエピソードだ。
そのフィールドでは生命力と体力がどんどん奪われ、食料の形をした回復系アイテムも他よりも格段に早く消耗が進む。
最初に攻略しようとしたパーティはボスにたどり着くまでに、モンスターの攻撃よりも、回復できないこととそこにいるだけで受けるダメージで全滅した。
新月騎士団は4回目の攻略で、本隊をボスにぶつけるまでのすべての戦闘を下部組織の覇者の軍団のプレイヤーに任せる、という荒技で、どうにか主力をボスにぶつけ、ほとんど圧し潰すようにこれを撃破した。
あの時は新月騎士団の20名の他に、ギルドとしてだが覇者の軍団のプレイヤーが60人はいたようだ。
つまり第103層に至ってみると、そのゴリ押しの攻略が全く裏目に出たことになる。
あるいは運営の方から新月騎士団に弱体化を働きかけている可能性もありそうだ。
あまりに一部のプレイヤーがゲームを支配するようでは、他のプレイヤーが黙ってはいない。当然、運営、ゲームマスターもだ。
「アッソンのところには新月騎士団のプレイヤーが来るか?」
「たまにな。よそへ寄ったついでだろう」
第13層は武器の修繕のメッカであるのは、まだ変わらないようだ。
「連絡先を教えてあるよね。もし何かあれば、続報を伝えて欲しい」
「なら次からあんたの武器を全部、俺に任せてくれ」
「時間とダラーに余裕があればね」
しょっぱい返答、と応じながら、アッソンは連絡先を確認した。お互い、変更はない。リアルのではなく、TWC内部のメール機能のアドレスだ。
店を出て中央広場に向かった。
その真ん中でパスワードを入力すると、僕のアバターは即座に第50層に移動していた。ここへのパスワードは例の4本腕のモンスターを転落死させた時に手に入ったのだ。
いきなり水がぶつかる音がしたので振り返ると、周囲をぐるりと滝に囲まれているのが目に入った。
市街の名前は、「ビッグ・フォール」か。
涼しげなものを感じながら、僕は初めての街に繰り出した。
(続く)




