七月二十二日(水曜日) (3)
七月二十二日(水曜日) (3)
喫茶店に二時間も居座って、最後には桂木姉妹が嬉しそうに去っていく一方、小宮くんはこちらを恨めしそうに見て、高木くんがそれについていった。
脇坂くんは僕と真澄と同じ方向へ帰る。
「真澄ちゃん、TWCやろうよ、ねぇ」
脇坂くんの甘ったるい声に、好きじゃないのよ、と真澄が笑顔で応じる。
今日の脇坂くんは、というか、真澄を見てからの脇坂くんは、どこか我を忘れているようだ。
「俺、これでも結構、上手いよ。真澄ちゃんのこと、守るのなんて造作もないから」
真澄は笑顔で無言。
ちらっと瞳がこちらを見る。
黙らせろ、ということらしい。
仕方なく、僕はスマートフォンを取り出し、二人に「ごめん、電話だ」と背を向けた。
見えないところでスマートフォンをいじり、真澄に電話をかける。
今度は真澄がスマートフォンを取り出す。まるで知っていたように、真澄のスマートフォンはマナーモードではなく、呼び出し音を発している。
これで問題ないな。
僕は真澄が出た瞬間に通話を切って脇坂くんに向き直る。
一方の真澄は電話で話すそぶりをしてから、僕たちに拝む動きをした。
「友達から呼び出しがかかっちゃった。とにかく、またね、脇坂くん」
申し訳なさそうな真澄の言葉に、ああ、と呟く脇坂くんと無言の僕を残して、真澄は片手にスマートフォンを持ったまま、ここまで押して歩いていた自転車にまたがる。そのまま颯爽に走り去ったが、器用というか、違法行為だ。
「あんな美少女が、この世にいるとは」
真澄の背中がだいぶ小さくなってから、脇坂くんがそう感慨深そうに声を漏らした。そして、こちらに笑みを見せる。
「紹介してくれてありがとう」
紹介したわけじゃないけど。
「運命の人が見つかった」
……運命じゃないと思うけど。
僕たちは並んで歩いたけど、脇坂くんが真澄をひたすら褒め称えるので、僕もさすがにうんざりして、相槌を打つのに終始した。
別れてから家に戻ると、びっくりすることに、真澄が待ち構えている。
正確には、玄関で秋穂と立ち話をしていた。秋穂も今日は半日だったらしい。
僕が自転車を定位置に置いた時、スタンドを下げた音で二人がこちらに気づいた。
真澄はまだ冷ややかな目をしている。
「兄貴、変な男を真澄ちゃんの周りに近づけないでよ」
秋穂がそんなことを言うので、「あれでも生徒会長になる」と応じて横をすり抜けた。
二人の視線が背中に刺さるのが、なんとも、痛い。
(続く)




