プレイ時間:106時間〜
プレイ時間:106時間〜
何て言ったらいいのかな、とセグドリンが語り始めた。
「俺と兄貴は初期メンバーの最後の方だ。リーダーのプレイヤーと他に四人、その五人が中心だった。連中は俺たちが誘われた時、すでにレベルは200を超えていた」
「いつのことですか?」
「1年より前だ。どうやってそこまでレベルを上げたか、と聞いたら、連中は時間をかけて決闘を繰り返し、お互いを高めあっているようだった。決闘と言っても本当の決闘だ」
「アバターが死ぬような?」
「アバターはいくら死んでも、いくらでも蘇らせることができる。仕様の隙間なんだろうが、高レベルプレイヤー同士が決闘をすることが、ボスを攻略するよりも高い経験値を手に入れられる場面がある」
この手のゲームの常として、プレイ時間が長いプレイヤーが有利で、最も有利なのはゲームが開始された当時からコンスタントにプレイしているプレイヤーになる。それが新月騎士団の中核メンバーなんだろう。
この時間というフォロー困難な難題を解決するのが、決闘なのかもしれない。
運営としても、後から参加したプレイヤーが楽しめない、露骨に言えばレベルを上げられないというのは、損になる。
そう思えば、プレイヤー同士の決闘は、やや偏向しているものの、高レベルプレイヤーが初心者を素早く鍛え上げる、そういう仕組みにも思える。
「どうして新月騎士団を抜けたんですか?」
「面白くないからだよ」
面白くない?
「連中はとにかく、レベルを上げること、新しいモーションを手に入れること、そんなことばかり考えている。ボスを倒すことが目的とはいえ、極端に閉じた輪なんだ」
「嫌がらせというのは?」
「レベルやステータスを暴露される」
それはマナー違反だ。
暗黙の了解に近いけれど、プレイヤーは気を許した相手にしか個人情報を知らせないし、他人の個人情報を知らせることを自制する。
TWCにおいてステータスが露見すると、無数のパーティから勧誘される。
このゲームのプレイヤーの大半は、世界樹のより上層へ行くことを求めるから、強い仲間は喉から手が出るほど欲しい。
ただ、そうやって求められる方になれば、煩わしい。
それに、遊びとしての自由とは減るだろう。
「運営に通報しましたか?」
「運営は見て見ぬ振りだよ。事実確認ができないからな」
もしかしたらこの辺りの新月騎士団のやり方に、デギオンもアカリアも反発を覚えたのかもしれない。
そしてひっそりと第一線から離れたのだ。
「兄貴のアバターはこれだ」
すっとセグドリンのアバターが手を振って、一人のアバターの胸から上の映像を映す。
禿頭で、片方の目に黒い眼帯を付けている。肩の様子では体格ががっちりしているのはわかる。
「何かわかったら、教えてくれ。頼む」
頭を下げられて、僕は「努力します」と言うしかなかった。
(続く)




