プレイ時間:104時間〜
プレイ時間:104時間〜
メソポタミアという街は衣服の職人が多い。
それには第33層のNPCショップでしか買えない、複雑な文様の素材が存在することも大きいかもしれない。
ヴァルナヴァルなどはここまで上がったらリアルの金に物を言わせて、高級な素材系アイテムでオリジナルの衣服を作るかもしれない。
僕のアバターはずっと、アカリアがくれた青い衣装を着ている。
そしてどの街を歩く時も、僕は同じ服がどこかにいないか、探してしまうのだ。
期待して、裏切られることにも慣れた。
事前に調べていたNPCの素材系アイテムを作る店に入った。
不思議な設定だが、レベルが上がって世界樹を上がっていくと、素材系アイテムを作るNPCが出現する。これは素材系アイテムを渡すことで、新しい素材系アイテムが出来上がる、という寸法だ。
なぜ、そんな面倒なことをするのか、よくわからない。
とにかく僕は今、手持ちのアイテムからジャイアント・タイガーの毛皮とスノー・ベアの毛皮を選択し、NPCに提示した。
NPCアバターが大仰な身振りをする。
「高級な素材ですね。「虎の織物」が出来上がりますがよろしいですか?」
虎の織物、というものが何を示すかはまだわからない。
とりあえず手持ちのアイテムに保険として残す分を確保して、他は全部、虎の織物という素材系アイテムに変えた。
待ち時間はなくすぐに僕の携行アイテムの欄に、虎の毛皮、というものが追加される。数の表示がない。
これもまた稀にあることだ。
素材系アイテムから別のアイテムを生成するとき、素材系アイテムの数を求められる場面もあれば、逆に一つだけあれば問題ない、ということもある。
今回は後者らしい。
さて、ではこれをどこのプレイヤー、もしくはNPCが防寒着にできるのか。
開放掲示板で検閲をくぐり抜けた情報を頼りに、茶色い石造りの街を抜け、路地に入る。
しかし、目当ての店は閉まっていた。閉店ではなく、空き店舗になっている。
プレイヤーが商売をやめたのかもしれない。
こうなると、一から情報を集めないとダメか。
「へい、そこの兄さん」
いきなり声をかけられて、横を向くと路地の道端に座り込んでいるアバターがいる。
これもTWCのよくわからない仕様だけれど、このゲームでは乞食をすることができる。
ただ路上に座り込んで、「ダラーをください」などと呟くだけの遊び方だ。
何が楽しいかわからないけれど、噂では乞食同士で収入を競うような、極端に歪んだプレイがあるらしい。
このアバターもそうか、と思ったが、服装が立派だ。
「服が欲しいのか?」
そう促されて、そうですけど、と答える。
すっくと男が立ち上がった。長身で細身、着ている服はやはり安物ではない。文様ではなく、絵が描かれてる。イラストではなく、和風の日本画だ。
「ダラーは持っているか」
「少しは」
「少しじゃダメだ。いくらだ?」
僕は画面の端のダラーの表示を見る。
「10000ダラーは出せる」
そうかい、と男が頷き、こっちだ、と先導し始めた。
路地のさらに奥へ向かうらしい。
安全地帯だから、決闘でもしない限り、死ぬことはない。
ただ、こういう場面で不安を感じるのが普通だ。
男はそんな僕の心理を気にした様子もなく、先へ進んでいった。
建物の陰にできた闇の中へ、進んでいく。
(続く)




