七月十九日(日曜日) (1)
七月十九日(日曜日) (1)
昼食前に秋穂が帰ってきた。
「真澄さんがこれを渡してくれって」
部屋で父さんから借りた司馬遼太郎の「関ヶ原」を読んでいるところに、ノックもせずにドアを開けて秋穂がやってきたので、慌てて起き上がった。だらしない姿勢だったのだ。
「何、それ」
「知らない。渡してって言われただけだし。塩野七生は読み終わった?」
何もかもが急展開な妹である。
「とりあえず、「ローマ人の物語」は、最後までね」
「じゃあ、貸して」
「僕がもらった本だけど」
返すから、返すから、と繰り返されて、仕方なく僕は43冊の本を彼女に渡した。
秋穂は読書家で、常に本に飢えているところがある。叔母さんとは話が合うようで、僕は知らないけど、叔母さんと連絡先を交換しているようだ。
一人になってから、やっと真澄からの何かをチェックした。
手作りの冊子である。
表紙には手書きの文字で「東京旅行計画」と書かれていた。
なんとなく硬質な文字の並びなのに、字体が丸文字なので、妙なちぐはぐさがある。
ページを繰っていくと、東京までの電車料金と時刻表、山手線界隈でも新宿、原宿、渋谷のいくつかの店に関する解説が写真付きでレイアウトされている。最初はパソコンで配置を決めたようで、しかし文字は全部手書きだ。
まさに手作りしたらしいけど、かなりの熱の入りようだった。
これが前に話していた「旅行」っていう奴のことか。
さらに先へ進むと参加者という欄がある。
まず一番上にあるのは、近藤真澄。まあ、妥当だ。
その下が、織田春樹、だった。
つまり僕。
これは何かおかしい。
念のため最後まで冊子を見ると、一番最後にメモが差し込まれていた。
「これは試作品で、連休明けまでに参加者を募るように」
そう書かれていた。
なんか、北方謙三の「水滸伝」が思い浮かぶな。
僕はこの冊子を手に、同志を募るのか。
東京旅行計画は、つまり、替天行道、ということらしい。
部屋に一人しかいないのに、思わず声に出して「しまったなぁ」と言っていた。
ややこしいことになった。
僕は真澄のことは知っていても、彼女がどういう友人関係を構築しているか、全く知らない。
真澄は僕の友達と会うことに抵抗がないようだけど、僕はそういうわけにはいかない。
少し考えて、僕はスマートフォンで真澄に電話をかけた。
(続く)




