プレイ時間:100時間〜
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第12層のジャングル・テンプルの喫茶店にログインして、僕は真っ先にアイテム欄を確認した。
第49層の寒さを克服するためには、防具に追加して、防寒着を着なくてはいけないのは自明だ。そういう設定で、つまりあそこへ上がってプレイヤーは、防寒着の調達のために下へ戻ることが想定されている。
僕に都合がいいのは、第12層にはジャイアント・タイガーがいることだ。
ジャイアント・タイガーを倒すと数種類のアイテムがランダムにドロップされる。牙や爪といったものが多いけれど、他には生肉もある。
一番、確率が低いのが、毛皮、だ。
おそらくこれがヒントで、この素材系アイテムである毛皮を集めて、どこかのNPCショップで防寒着をしつらえることになるだろう。
そうでなくても、何かしらの素材系アイテムが必要だ。
スノー・ベアの可能性もある。今、僕の携行アイテムの欄には、ジャイアント・タイガーの毛皮が22個、スノー・ベアの毛皮は12個。他にもそれ以外の雑多な素材系アイテムが列をなしている。
本来的には預かり屋に放り込むか、さっさとダラーに変えるべきなんだろうけど、これは僕のアバターへの負荷でもあるから、可能なかぎり、持ち歩いている。
可能なかぎりと言っても、未だに分母は空白で、無限なわけだけど。
第12層から第49層の間に、腕のいい裁縫職人のNPCがいると思うけれど、全てを実際に確認するのは面倒だ。
自然、開放掲示板の情報を漁っていた。
一部が運営の検閲で消されているけど、その検閲をかいくぐるどこかのプレイヤーのお節介で、どうも第33層にその裁縫職人のNPCアバターがいそうだった。
第33層か。
記憶をたどってみる。
砂が印象に残る層で、第3層に少し似ているけど、第33層は起伏が激しく、危険地帯の名称も「山岳」だったはず。
あそこはなんとなく中東風のデザインの街があって、名前は、確か、「メソポタミア」だったな。そのままなのだ。
近いうちに足を運ぼう、と思ってアイテム欄を再確認してから消すのとほぼ同時に、ヴァルナヴァルがログインしてきたと通知が出た。
店内にアバターが出現する。
「へい、ボス。偶然だな」
彼が軽い調子でいう。
「ボスっていうのはやめてよ」
「じゃあ、部長」
「もっと嫌だ」
部長、というのはいい加減な呼称ではなく、理由があるのが厄介だ。
僕はパーティの名前を「ニューカマーズ第2部」としていた。だから、部長。
ニューカマーズは、まだ残っている。
デギオンからもアカリアからも、連絡はないけど、三人だけのパーティはまだ、残っているのだ。
訓練しようぜ、とヴァルナヴァルが言うので、いいよ、と僕は席を立った。
有料モーションで、無駄に派手な動きでヴァルナヴァルが立ち上がるのが可笑しかった。
(続く)




