プレイ時間:59時間〜
プレイ時間:59時間〜
そこには腕飾があった。三つの輪が一つらなりになっている。知恵の輪に似ている。
アバターが手で触れると、ひとりでに三つに分かれた。
「これを一つずつ持とう」
言いながら、一つをデギオンに、一つをアカリアに手渡す。
二人ともそれを仔細に観察し、そして右腕の手首を通した。僕も同じようにする。
「パーティを解散はしないでおこうぜ」
デギオンからそう言ってくれた。
「そのうち、どこかで、また組むということでいいだろう。今はそれぞれ、やりたいようにやる。いいよな、アカリア」
「もちろん」
今回は僕から、拳を突き出した。
手首に輪の飾りのついた右手だ。二人とも同じ行動する。
拳同士がぶつかり合った。
デギオンがログアウトしていき、アカリアは何かを言いたげな素振りの後、「ちゃんとしゃべれるんじゃない」と言った。
「まあね。ちょっと、コンプレックスで」
そんなことないよ、とアカリアが笑う。
「しかし声の感じでは、まだ若いね。まさか小学校を卒業したばっかりとか?」
「そこまで子供っぽいかな」
「冗談だよ」
アカリアがそう言って、どこかに視線をやり、「またね」と手を持ち上げるモーションをした。
僕も同じモーションを返し、自分が喋れることを思い出した。
「また会おう、アカリア」
「オーケー。バイバイ」
そんな言葉を残して、彼女のアバターは消えた。
僕は一人きりでラーメン屋のカウンターに腰掛ける。店主が注文を待つような動きをする。よくできたNPCアバターだ。
でも今の僕には金銭的余裕はあまりない。
さっきの腕飾を買うために、あり金のほとんどを支払ってしまった。
今、手元にあるダラーは、ほんの9000ダラーだ。
稼がないと、このゲームを遊べない。
一人きりで稼ぐのもいいかもしれないけど、どこかで仲間を見つけるのも、悪くないだろう。
デギオンやアカリアと出会ったように。
このTWCの世界には無数のプレイヤーがいる。
きっと気が会う相手がいるはずだ。
僕はラーメン屋を出て、とりあえず、第1層へ降りるべく、ストーンタウンの中央広場へ向かった。
僕のアバターは青い服を着ている。
この服はきっと、着続けるだろうな。
デギオンとアカリアを忘れないために。
中央広場の真ん中で、パスワードを入力する表示が出る。
三つのパスワードが並ぶ中から、第1層のセントラルのそれを選択。
新しい遊びが、これから始まる。
現実とは違う、けど全くの架空でもない、この世界で。
境界線上に確かにある、仮想世界で。
パスワードの入力をシステムが受領し、周囲の光景が変わる。
すぐにそこは、セントラルの中央広場になった。
僕はここからゲームを始めた。
ならもう一度、ここから始めることにしよう。
(第一部 了)
(第二部に続く)




