プレイ時間:〜0時間
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僕は目の前の光景に愕然とした。
特等に当選しました。
そう書いてある。
視界にあるのはオンラインゲーム「ツリーワールド・クロニクル」、TWCのトップページだ。表示の向こうには二時間を費やして設定した僕のアバターがある。
そもそもつい昨日、高校入試の結果発表があり、無事に大洋高校に入学したから、今日からTWCを遊べるようになった。
特等というのは、雑誌「ウェブ2」のクーポンだ。この雑誌はゲーム雑誌のひとつで、TWCの新規アカウントを対象にした抽選企画をやっていた。
雑誌の一ページにある目隠しされていたコードを入力しただけで、それでどうやら僕は特等に当選したらしい。
手元のコントローラーで承認を押すと、次には「10万ダラーを振り込みました」と表示される。
10万ダラー? 1ダラーが1円相当だから、これはとんでもないことになったぞ。
新しいスマホが買えるような額だ。でもゲーム内通貨なので、実際的な買い物はできない仕様だったはず。そう思うと、微妙な感じかもな。
その表示を消して、トップページで自分のアバターを確認する。髪の毛は金色で、やや長い。これはいつでも変えられるので、気に入らなくなればイメージチェンジはできる。
それよりも顔の作りは簡単に変えられないので、真剣に作ったけど、これはなかなか、比較的、自分の選択に間違いはない。今のところ満足だな。
アカウント名は「ハルハロン」。
本名から取ったけど、いいじゃないか。
そんな風に悦に入りながら、手元のコントローラーを操作して、他の情報も確認。
TWOは様々な機器に対応していて、HMDやコントローラーも各メーカーのものが自由に使える。しかし僕はHMDを持っていないので、簡易的なヘッドギアでスマートフォンを目の前に固定していた。
コントローラーは一昔前の家庭用ゲーム機のそれに似ていて、中古で買った安物だった。スマートフォンにくっついている外付けの小型無線機との相性が悪いので、やはり外付けの受信機をコントローラーのコードの先にくっつけている。コントローラー自体は内蔵バッテリーで機能する。
とりあえずはハルハロンはレベル一で、服装は平凡な、作品世界に馴染む衣装。身長はそれほど高くない。このゲームではプレイしていく中で体格などが変わるので、最初はみんなこんなものだ。
何はともあれ、ログインするとしよう。
最初に選べるのは作品世界である世界樹の根元にある、地上の街だけだ。名前はそれほど特徴のない「セントラル」である。
コントローラーのスティックでカーソルを動かし、ログインを選択。
ちょっと緊張して、ボタンの一つを押した。
トップページが揺らめくように消え、画面がローディングのそれに変わってから、短い文章が表示された。
ようこそ、ツリーワールド・クロニクルへ。
その表示が消えると、目の前には風光明媚な街が広がり、そして巨大すぎる大樹の幹が、そびえ立っていた。
(続く)