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プロローグ

好きなものをぎゅっと集めた最強+魔王な女主人公ものです。

逆境に対して決して諦めない心を持つ女の子が書きたかったんです。

それでは少しでも楽しんで頂けると幸いです。

――クスクスと目の前の闇が嗤った気がした。


するりと音もなく闇から涌き出るように姿を現した足首まで丈のある漆黒のローブを身に纏った女性の、目深に被ったフードがその顔を隠すように影を落とす中唯一露わになっている青のルージュが引かれた口元はとても楽しそうに三日月状に歪められている。


≪ああ、ああ。可哀相な王女様。貴女はいつも独りになるのね。≫


歌うように囁く声は高くもなく低くもなくとろりと流れ纏わり付くような蜂蜜のような甘さに満ちていて、それに促されるように顔を上げれば口元と同じ青で彩った血の気の全くないほっそりとした指の手が頬に添えられた。

ゆるりゆるりと頬を撫でる指先の優しい動きに瞳を細め、貴方は?と尋ねれば口元の三日月をさらに歪めた彼女が口を開く。


≪初めまして、我がクロルネアス国第一王女・ジーナ姫。私は貴女の味方ですわ。≫


「……わたしの……味方?」


≪ええ、そうですわ。私なら貴女を助けられる。私だけが貴女を絶望の淵から救ってあげられる。≫


「……本当に、助けてくれるの?」


そう続ける彼女の言葉は記憶の片隅に残っている文言と一言一句違わず同じで。

やっぱりここはあのゲーム――ぶっちゃけて言えば前世で『私』が大ハマりしていた王道ファンタジーRPG『エリピスカ・オブ・レガルノータ』の世界なんだと確信し、それをおくびにも出さず覚えている通りの『台詞』を口にする。


……そして。


≪ええ。もちろんです。そして、これが貴女を救う奇跡を宿した宝玉――『ラダシャルツ』ですわ。さあお受け取り下さい、ジーナ姫。≫


恭しく傅きわたしに向かって差し出された彼女の手にはその掌に収まるくらいの赤い燐光に包まれた鮮やかな紫みの赤色の球があり、奇跡を宿しているという割にはどこか禍々しいそれに躊躇しながら、いずれわたしを殺す彼女にバレないように息をついた。






『エリピスカ・オブ・レガルノータ』略称は『エレガル』。


舞台は中世ヨーロッパ風な剣と魔法の世界であるレガルノータ。

リュミラルス国の田舎町・ロシェレヴェルクに住む主人公が森の中の湖でヒロインと出会ったことがきっかけで旅に出るところから物語はスタートとし、様々な出来事や日常の中で少しずつ成長していく彼等はやがて、レガルノータを死の世界に変えようと企むクロルネアス国女王ジーナとの戦いに巻き込まれていくというありがちだけど分かりやすい設定に加え有名声優人達が声をあてた魅力的なキャラクター達、そして何より総プレイ時間六十時間超えというボリューム満点なストーリーがユーザー間で大好評となり発売と同時に大ヒットとなった家庭用ゲーム機向け王道ファンタジーRPGである。

かくいう私も発売の二ヶ月前にはキャラの簡易プロフィールや声優陣へのインタビューが載った小冊子付き初回限定版ソフトをばっちりネット予約したし、発売日当日にゲットしてからは寝る間も惜しんでプレイして、ストーリークリア後のやり込み要素まできっちりこなしたのを覚えている。


……ただ、それはあくまでもこの世界に生まれる前の所謂前世の話だけど。


前世の『私』は都内に住む成績・運動・容姿他その他全てにおいて中の中であり、強いて言うならゲームやアニメ、漫画と言った二次元関連に造形の深い所謂オタクって以外は特に特徴も個性もない、それこそどこにでもいる平々凡々な女子高生だった。

そんな『私』が死んだのは高校生活二年目の夏休みの真っ最中。


交通事故だった。


空からは一切容赦のない日差しが降り注ぎ、蝉の声に全てが包まれたうだるような暑さの中、前世の母に頼まれて近くのスーパーに買い物に行った帰り道。普段は車通りも少なく見通しのいい筈の交差点で、信号無視の車に撥ねられたのだ。






そんなまさに不運としか言い様のない自分の最期を思い出したのはこの世界――創造神レヴによって創られたとされるレガルノータ――は最大大陸の一つエリツォドールを治めるクロルネアス国第一王女ジーナ・クロルネアスとして生を受けてから五年後の事。

その頃からぶっちゃけ今の今までの七年間、世界名とか自分の名前に違和感は感じつつもいまいち確信が持てなかったのもあって前世の事は、夢とかどこかで読んだ本とかが影響しあったか何かして作り出した空想を前世の記憶だって思い込んでるんだろうって自分の中で結論付けてたけどこれで分かった。


どうやらわたし――日瀬椎奈(ひなせしいな)――はマジのマジでジーナとしてこの世界に転生したらしい。


そして、この状況はゲーム本編が始まる五年前、国王が病に倒れ亡くなったからというもの女王としてこの国を治めている母――ルリア・クロルネアスと兄――クロルネアス国第一王子にして正統なる王位継承者アディク・クロルネアスという生まれつきこの国では禁忌とされている闇の魔力をその身に宿していたがため周囲に恐れられ、疎まれていたジーナを可愛がり愛してくれていた二人を不幸な事故でいっぺんに失い絶望と孤独感に苛まれる彼女の元に現れた今目の前にいる女性・『深海の魔女』にそそのかされ凄まじい闇の力を秘めた宝玉『ラダシャルツ』を体内に取り入れてしまい世界最強の魔王として覚醒するあのシーンだろう。


ゲームで見た。


つまり、今目の前に差し出されている『ラダシャルツ』を受け取ってしまえばこの球とジーナの中に元々あった闇の魔力が結びつき増殖し、外部からのありとあらゆる干渉を一切受けつけない最強の身体にこの世界のどんなものより強大な闇の魔法を自由自在に操る魔王が誕生すると共に、ゲーム本編と言うレールで定められた運命の火蓋が切って落とされるのだろう。


そしてその先にあるのは主人公との最終決戦中、劣勢になった彼女の前に突如現れた『深海の魔女』によって心臓を貫かれ、世界を我が手中に収めるためジーナを利用しようと女王とアディクを事故に見せて殺害し高笑いする『魔女』の声を聞きながら強大化し暴走する己の闇に姿も記憶も人格も心も魂さえも飲み込まれた挙げ句『魔女』――かつてこの世界を蹂躙した邪神・クェムアダスに吸収され、主人公の持つ聖剣『アシャラスク』の前に果てると言うわたしにとっては何一つ救いがない結末だ。


受け取らなければその結末は回避出来るかもしれないけど、女王と王位継承者である兄亡き今、例え唯一存命な王族とは言え齢十二歳の彼女が王として君臨し自らに逆らう者は全て処刑するという独裁政治を敷きながらも国を維持できたのは『ラダシャルツ』によってもたらされた強大な力があってこそだ。

そうでもしなければ何も知らない十二歳の誰からも好かれず疎まれている女王なんざ己の野望に瞳をぎらつかせた権力者達に好きなように利用され、この国が蹂躙される未来は今ジーナとしてここに立っているからこそ想像に難くない。


なら方法はたった一つ。


ここで『ラダシャルツ』を受け取ってわたしが迎える結末を、『エリピスカ・オブ・レガルノータのストーリー』を改変する。

きっとそれしか選択肢は残されていない。


『……ああ崩れていく。私が、消えていく。ああ、そうだ。私はただ、愛されたかっただけなんだ。私の身に巣食う闇など恐れずに、ただ共に話し、笑い、泣き、時に衝突しながらも側にいてくれる存在が欲しかった。独りはもう、嫌だった。最初はそれだけだったのに。どこで間違えてしまったんだろうなあ。挙げ句、母様と兄様が愛したこの国をこの私が何よりも蹂躙して。幾多の民もこの手にかけて、数えきれない悲しみを生み出した。……ああ、なんて愚かだったんだ。孤独を憎しみで埋めよう等とできる筈もないのに。私が愛する心をもたなければ、誰かに愛される事もないと分かっていた筈なのに。……そうか、私を誰よりも愛していなかった、のは私自身、だったのか……。そんな事に今さら気が付くなんて、本当に、愚か者……――』


ゲームでの最期のシーンで闇に飲み込まれながら主人公とヒロインに語った通り彼女の本当の望みは世界の破滅等ではなく、そんな細やかで切実で拙いものだった。

それをわたしが叶えられるかは分からない。

でもストーリーが開始されるまでにあと五年も猶予があるし、結末を知っているわたしだからこそ動く方法なんてきっといくらでもある。


だから……。


「……――意地でも生きて、変えてやる。」


目の前の相手に聞こえない音量で呟き、大切で大好きだった二人の仇が差し出すその宝玉へと手を伸ばした。

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