これは罠か
翌日、またいつものように朝が始まる。それと同時に、また新たな出来事が本に書き込まれる。突然目の前に現れた本に書かれた事を、解決する為に今日も玲奈は動く。
教室に入ると、智が先に来ていて、玲奈の横に座っていた。玲奈はランドセルを置いて、智の横に座った。
「おはよう、智君」
智は、振り向いて玲奈を見た。
「ああ、おはよう…」
「ずっと隣にいるのに、智君の事何も知らないなぁ…」
「僕の事に興味があるの?」
智は意外だっていう顔をする。どうやら、今まで智にそう話し掛けてくれた人は居ないようだ。
「例えばそうだな…、智君って何になりたいの?」
「僕は…、父さんみたいになりたいなって思ってる」
「そんなに凄い人なの?」
「うん…」
智は、少し頬を赤らめて、そう答えた。智にとって、智の父親は大きな存在なのかもしれない。
そう玲奈が思っていると、智は話を変えてきた。
「ところで、今日は何が起きるんだ?」
智にそう聞かれ、玲奈は本を開いた。すると、今日の日付のページが早速ある。
「えっと…、白部山で猪の罠に人が引っかかる?」
「そんな事があるのかよ?」
勤が、またもや信じられないと思う。
「分からない…、でも、やるしかないよ」
玲奈は本をしまって、次の授業の用意を始めた。
学校が終わって、玲奈はランドセルを置いて、三人で集まった。そして、揃って白部山へ向かう。
「梨乃さんは今日も来ないのか…」
「中学生ってそんなに忙しいのかな…?」
玲奈と勤が梨乃の事を心配する中、智は首を傾げる。智はまだ梨乃に会った事がないからか、梨乃が居る事に実感が湧いていないようだった。
そして、玲奈達は猪の罠の前に辿り着いた。その罠は檻のようなもので、大人が入りそうなくらい大きかった。
「これが猪の罠かぁ…」
「こんな猪がいるのかよ?」
勤は、信じられないと思いながら、罠の周りをくるくると回った。
その時、三人の背後に何かの気配を感じた。振り向くと、そこには大きな猪が居る。玲奈達は慌てて避けて猪を罠に入れようとしたが、全く引っ掛からない。
「違う…、あれはただの猪じゃない」
その猪は明らかに大きく、また何かの気配を感じた。だが、玲奈にしか見てない訳ではないようで、勤や智も存在に気づいているそうだった。
玲奈がどうしようと迷っていると、その猪に石が投げつけられた。見ると、遠くから智から石を投げて、猪をおびき寄せていた。
「玲奈と勤は罠を見ていてくれ!」
智は、目にも止まらぬ速さで、山の中を走り、猪を玲奈と勤から遠ざけた。
智の言いつけを守って玲奈と勤が罠を見張っていると、猟師が猪に追われ、逃げていた。どうやら、猪は猟師を罠の中に追い込もうとしているようだった。
「猟師さん?!」
玲奈は、慌てて罠の扉を閉めて、猟師が入らないようにした。猟師は扉にぶつかり、中には入り込まなかった。
そして、別の猟師がその猪を撃って、その猟師は助かった。倒された猪は、蒸発するように消えていく。
「倒した瞬間に消えた…、あれはただの猪じゃない」
「えっ…?」
「巨大な猪が何度も山の中に現れてる…、一体何故だ?」
猟師が二人して悩んでいると、猪と山の中を走っていた智がひょっこりと戻って来た。
「お帰り、智君」
「武器もないのに、あんな奴をどうやって追い払ったんだよ…?」
智は何事も無かったように、口元だけ緩めて玲奈達の側に付いた。玲奈が本を開くと、今日のページの文字は消えていた。
あの猪は何だったのか、智はどうやって猪を追い払ったのか、よく分からない玲奈と勤だったが、無事に今日の事件を解決する事が出来たようだった。