マンホールが開いて
翌日、玲奈が登校すると、何ともなかったように智が隣に座っていた。智は、何か考えているらしく、ずっと窓の外を見ていた。玲奈は、そんな智の背中を叩いて、こう話し掛けた。
「おはよう、智君」
智は、玲奈に気づくと振り向いた。
「ああ、おはよう」
「昨日突然消えてびっくりしたよ、何かあったの…?」
「別に、急用を思い出しただけだ」
「急用…?」
玲奈は何の用かと気になったが、智は答えてはくれなかった。
そうしていると、勤が教室に入って来た。勤は、玲奈と顔を合わせるとすぐに、本に書かれている事について聞いてきた。
「玲奈、今日は何が起きると書いてあるんだ?」
玲奈は本を開いた。すると、白紙だったページに文字が浮かび上がり、今日の日付の下に何か書かれている。
「えっと…、マンホールが開いて中に人が落ちるって」
「マンホールが開く?そんな事があるのかよ?」
勤は昨日の事があっても、未だにこの本に書かれている事を疑っている。
後から玲奈が聞いた話によると、白部山で崖崩れがあったそうだ。しかも、その場所が勤が危険だと言った場所だった。昨日、気づかずに通っていたら巻き込まれていたかもしれない。
「でも、昨日崖崩れがあったっていうのは本当だったし、今日の事も…」
「そんなに気になるなら、放課後町中のマンホールを見て回ろう、そして、何かあったらすぐに電話するんだ」
「…そうだね」
玲奈と勤、それから智は放課後集まると約束して、それぞれの席に座った。
そして、放課後になると校門に三人集まった。
「今日も梨乃さん居ないのか?」
「うん、しばらくバトミントン部で忙しいんだって」
梨乃は今、入部したてのバトミントン部で忙しくしている。
「せっかく梨乃さんに会えると思ったのに、残念だよ」
梨乃が居ない事に何故か勤ががっかりしている。梨乃の事を知らない
「勤、梨乃さんって誰なんだ…?」
「あれ?智君って梨乃姉ちゃんに会った事あったっけ…?」
「いや…?」
「風見梨乃、血は繋がってないけど、私のお姉さんみたいな存在だよ」
「風見…?」
智は、梨乃の名字である風見について気になる事があるらしく、何か考え込んでいた。
「風見家は陰陽師の子孫で、不思議な力を使えるんだよ!その力で、おじいちゃんを助けたんだって!」
「『風見の少年』の話だろ?でも、その話本当なのかよ?」
「本当だって!」
二人が言い合う中、智は一人で何かを考えている。智は、何か知っている事があるようだが、玲奈にそれを伝える事はなかった。
その時だった、玲奈の近くで何がが落ちる音が聞こえた。駆け寄ってみると、マンホールの蓋が開いて、中に女性が落ちている。玲奈は、マンホールに顔を突っ込み、腕を伸ばした。
「危ない!」
玲奈は女性の腕を掴んで持ち上げようとした。だが、玲奈の力だけでは持ち上がらない。その時、智が女性のもう片方の腕を掴んで、引き上げた。
「ありがとうございます…」
女性は二人にお礼を言った後、携帯電話を取り出して電話をしていた。
玲奈は、智が助けなかったら女性は助からなかったと思い、お礼を言おうとしたが、智はそっぽを向くばかりだった。
「智君、身体が小さくて、しかも細いのに力あるんだね?」
「そうか…?」
智は玲奈よりも身長が低く、色白で、しかも腕も細かった。それなのに、体育の授業では優れた運動神経を見せつけている。
「何か特別な事でもやってるの?」
「いや、特には…」
智は、玲奈と勤に背を向け、開いたマンホールをずっと眺めていた。
その後、女性が電話で呼び出した水道局員がやって来て、マンホールの修理が始まった。玲奈達は、無事に今日の事故を回避させる事が出来たようだ。