隣の転校生
教室に入って来たのは、玲奈達と同級生の少年だった。黒髪黒目で、黒い半袖のパーカーを羽織っている。その少年は、黒板に丁寧な字で自分の名前を書いて、礼をした。
「剣崎智です。よろしくお願いします。」
そして、玲奈の隣の空いている席に座って来た。
「これから、よろしくな」
「あっ、よろしくね」
初対面であるはずの玲奈に、智はこんな事を聞いてきた。
「お前さ、渡辺茂の孫なんだろ?」
「そうだけど…、どうして知ってるの?」
「別に、どうだっていいだろ」
智はそれっきり、玲奈に話し掛ける事はなかった。
転校生だという事で、智は最初の頃はクラスの中で人気者だった。体育の時は跳び箱で、一番高い段を跳んで見せて、クラスメート達を驚愕させた。その運動神経は人間離れしていると言っても過言ではなかった。
また、授業で発言する時も毎回正解して、隙を見せない。成績優秀で、運動神経抜群な転校生に皆が夢中になった。
ところが、ある時から智の周囲に集まっていたクラスメート達がだんだん離れていき、遂に一人になった。玲奈がクラスメート達に話を聞いてみると、近づいたら睨まれた、とか、雰囲気が何処か怖いという声が返ってきた。
確かに、智は端正な顔立ちをしていたが、表情を変えた所を玲奈は見た事がなかった。常に敵意剥き出しで、何かを睨んでいるような目つきをしている。最初は、転校したばかりで緊張しているだけと思っていたが、それが二週間続いている。
そこで、玲奈は偶然隣の席だというのを使って、智に話し掛けてみた。
「智君、私のおじいちゃんを知ってるんだね?」
「まあな…」
智の口調は、玲奈と同い年とは思えない程に落ち着いている。笑う事も、驚く事もなくいつも冷静だった。
「私のおじいちゃんは、怪奇小説家で、死出山についてまとめてるんだ。もしかして、それも知ってるの?」
「父さんが昔そこに住んでいたみたいで、僕も引っ越す前はその近くに暮らしていたんだ」
どうやら、智も死出山に縁があるらしい。それを知った勤は、玲奈と智の間に割り込んで来た。
「おじいちゃんも、うちのクラスの勤君のご両親も、死出山に縁がある人なんだよ。」
「ひょっとして、知り合いかもしれないな!」
玲奈と勤は、馴れ馴れしく智に話し掛けて来る。智は、そんな二人を鬱陶しく思っているのか顔をしかめた。
その後も、玲奈と勤は、一方的に智に話し続けた。少しだけ答えた話によると、智も茂が書いた小説を読んだ事があるのだそうだ。
「そうだ、この本…」
茂の事を話していたら、玲奈は今朝拾った本の事を思い出した。奇しくも茂が呪われた本を手にしたのも、今の玲奈と同じ小学五年生の事だった。
「玲奈、その本どうしたんだ?もしかして、茂さんみたいに呪われた本とか…?」
「今朝拾ってね、何だろう…」
玲奈は初めてその本を開いた。すると、空白だったページに文字が浮かび上がる。そこには、二週間前に玲奈の目の前で起きた交通事故の事が書かれてあった。次のページをめくると、同じような文章で、何時、何処で誰が死ぬというような事が書かれている。
「死の予定が書いてある本…?」
玲奈は、その本に書かれてある事が噂話や空想の話とは思えなかった。しかも、未来の事が定められた予定のようにこと細かく書かれてある。
「これに書かれてある事が本当なら…、俺達で止められるんじゃないか?」
確かに勤の言う通りだと、玲奈は思った。そういえば、茂が書いた小説にも、似たような事をする同級生の話がある。
「死出山怪奇少年探偵団…、そうだ!卓さんみたいに探偵団をすればいいんじゃないかな?」
「探偵って…、俺と玲奈でか?」
「梨乃姉ちゃんも誘うんだよ!そうだ、智君も!どう?」
「ああ…、良いけど」
「やった!よろしくね」
玲奈は、半ば無理矢理に智を引き込み、握手を交わした。智は、最初は嫌そうにしていたが、何か考えていたらしく、一瞬口元を緩めた。