香澄の退院
翌日の放課後に玲奈は、昨日梨乃に手渡された紙袋に手紙を入れて、二人で中央病院に向かった。すると、同じ時間にやって来た香澄の母親に出会った。
「退院おめでとうございます」
「みんな、私の代わりに香澄のお見舞いにいってくれて、ありがとう」
香澄の母親は、そう言って梨乃と玲奈にお礼を言う。そして、横に居た豊にもお礼を言った。
「香澄は私を始め、色んな人に迷惑を掛けた事を申し訳なく思っていたわ。」
「いえ、僕は…」
豊はそう言って香澄の母親から目を逸した。
そして、玲奈は香澄の病棟に入って行った。すると、香澄がベッドから立ち上がって母親の方に駆け寄ってきた。
「お母さん!会いたかったよ」
「香澄…」
「お医者さんが、もう退院して大丈夫だって言ってた。学校にも少しずつで良いから通って良いって!やっと中学校に通える!」
香澄はそう言って梨乃と豊の方を向いた。
「良かったね、香澄」
「うん…」
香澄は梨乃達にお礼を言って、中学校の話を始めた。
入学式の後すぐに病気で入院してしまった香澄は、授業も部活も経験した事がなかった。香澄は、梨乃と豊と同じクラスだと知ってはいるが、未だにクラスメートの事をあまり知らない。
そんな香澄に対して、二人はお見舞いの時に中学校の話をしてくれた。実は梨乃は、音楽好きな香澄の為に、吹奏楽部の顧問と話をして、退院したら是非とも見学させて欲しいと頼み込んでいたのだ。香澄は、退院したら、それを一番に楽しみにしているそうだった。
そして、香澄の主治医が病棟にやって来た。香澄の調子は予想以上に回復していて、今日にでも退院して良いとの事だった。香澄は久々に私服に着換え、荷物を片付ける。
香澄は、梨乃と玲奈の手紙とプレゼントを開けて、喜んだ。梨乃は便箋と一緒に、中学校で使えるノートを買っていた。楽譜の模様が入ったノートを見て、香澄は喜んでいた。
同じ頃、智も香澄の病棟に向かっていた。香澄が回復した兆しを感じ取って、それを確かめようとしていたのだ。智は花束を持って、香澄の事を探す。
そして、智が病棟の中に入ると、元気になった香澄は、豊と談笑していた。その笑顔は、今まで智と横に居た時は、見せなかったものだった。
それを見て、香澄には自分よりも大切な男の人が居ると思った智は、呆然と立ち尽くしてしまった。
「どうして、そんな大事な事教えてくれなかったんですか…?」
「智君、違うの。山城君は私を心配してくれてただけで…」
香澄は必死に否定しているようだが、智はその言葉が信じられなかった。
「あんな顔、俺の前ではしてくれなかったのに…」
智は思わず花束を投げ出して、病棟から飛び出してしまう。
「待って!智君!」
玲奈は智を追いかけようとしたが、追いつけない。
「智君も香澄さんの事を心配してくれていたのに、どうして…」
玲奈は、智の事が心配になっていた。これだけ落ち込んだ感情を見せたのは初めてだったからだ。
玲奈は香澄と別れた後も智を探したが、結局出会すことはなかった。




