君の声を聞かせて
そのまた翌日、いち早く教室に着いた玲奈は、一人自席で本を読んでいた。すると、智が一人教室に入って行く。
「おはよう、智君」
「ああ、おはよう…」
智は眠い目を擦って、玲奈の横に座った。そして、教科書を机にしまって、伏せようとする。
「どうしたの?眠れなかったの?」
「うん…」
智は、膝を押さえてぐったりとしている。昨日元気だったのが嘘のように、元気が無い。
「傷の治りが悪いな…」
昨日怪我したばかりだというのに、智は相変わらず半ズボンを履いている。そのせいで、傷が剥き出しだった。
「なんか元気ないね、大丈夫?」
智は筆箱を枕代わりにして顔を伏せている。これだけ元気がないなら休めば良かったのに、と玲奈は言おうとしたが、智にはそれを聞く余裕がないようだった。
元気がない智は珍しいな、と玲奈は思った。授業の時は難なく色々こなせて、運動神経も良い智が、疲れる事なんてあるんだな。玲奈は、そんな智を、玲奈は頬ずえをついてじっと見つめている。
「智君って、あんまり自分の事とか、気持ちとか外に表さないよね?」
「うん…」
「私、智君の本当の気持ちが聞きたいんだ。でも…、それを伝えるのが苦手なら、しょうがないよね」
智は細い目で玲奈の方を見る。
「玲奈と茂さんって、あんまり似てないんだな…」
「そうかな?」
智は頷いた後再び顔を伏せて、動かなくなってしまった。
玲奈が、そんな智を見ていると、教室に愛花が入って来た。愛花は玲奈を見かけると、自分の机にランドセルを置いてやって来た。
「おはよう、愛花ちゃん」
「おはよう」
愛花は、玲奈の横に来て、一緒に話した。その間、智は顔を上げる事はなかった。
結局、智は朝の会が始まるまでずっと眠っていた。自分の家よりも、玲奈の横が落ち着くのか、安心したかのように寝ていた。
今日の智は、授業中も元気がなかった。横に居る玲奈も、智は授業に集中していないという事が分かった。昼休みの間も、机から立ち上がる事なく、じっとしていた。
そして帰り道、玲奈は梨乃に出会った。梨乃は先程まで買い物に行っていたらしく、紙袋を持っている。
「香澄のお母さんから聞いたの、もうすぐ退院出来るんだって!」
「本当に?!」
玲奈はそれを聞いて、自分の事のように嬉しくなった。香澄が元気になって、また一緒に遊べる。
しばらく入院で香澄の元気な顔を見られなかった玲奈は、久し振りに病院の外で香澄と会えると思うと、居ても立ってもいられなくなる。
「だから明日、山城君と香澄のお母さんと一緒に病院に行こうと思ってね」
「うん!香澄さんに会いたいよ!」
梨乃は玲奈に紙袋の中の一つを手渡した。そこには、小包と、ブーケの形の便箋が入っている。どうやら、それに手紙を書いて渡すのだそうだ。
「そういえば、智君は?」
「それが、今日元気がなくて…」
「そっか…」
梨乃は、智の分の便箋も買っていたのだそうだが、渡す事が出来なくて残念だと思った。
「ここに手紙を書くよ。それで、明日一緒に香澄さんに会いに行こうよ!」
「ありがとう、玲奈ちゃん」
玲奈は、家に帰ったら忘れないように香澄に手紙を書こうと思いながら、便箋を紙袋の中に戻した。
そして、梨乃と別れた玲奈は、紙袋を抱えて家に戻っていった。




