偽りの仮面
…死神は冥界、人間達が言うあの世に棲み付き、現世にやって来る存在だ。だが、智の一族の剣崎家は、昔から一定の期間の間は現世に棲むと決まっている。
火の死神にして、冥王月輪の長女紅姫の子孫である剣崎家は、他の死神から一目置かれている。それなのに、何故現世で暮らしているのだろう。智は、幼い頃からずっと疑問に思っていた。
「父さん、どうして俺達だけ現世で暮らしているの?」
智の父親の廉は、優しい口調でこう返した。
「智、生と死っていうのは隣り合わせなものなんだ。だけど、どちらかの状態でしか居られない。俺達はな、死んでるものを相手にしている。だが、それにはまず生きてるものを相手にしなければならない。」
「そうなの…?」
「俺はずっと冥界の死神には、まず現世に降り立って生きているものの様子を見ろって教えてるんだ。だから、智にもそれを知ってもらわないとな」
それは、本当の理由とは異なるものだったがとても大事なことだった。だが、智はまだ疑問を持っていた。
「俺達の仕事は死んだものを送る事なのになんで生きているものの相手をしなければならないんだ…?」
智はそう廉に質問したが、廉は自分で考えろという代わりに黙り込んでしまった。
廉は血筋だけでなく、人柄の良さから死神達から尊敬されていた。
「人を助けるのもまた、死神の役目だ」
その言葉は廉の言葉だった。廉も幼い頃からずっと現世で暮らしている。様々な人と関わり、生きた人間とも仲良くしているようだった。
だが、未だに智はその言葉の意味が分からない。死神なのだから、生きている人間の相手はしなくていいだろうと思っていた。
本来の智は、泣き虫で、甘えん坊だった。だが、幼稚園に入園し、周囲の人間と関わるようになってから、自分を押し込むようになってしまう。
それは、人間達を弱い存在だと見下すようになったからだった。そして、自分の考えを周囲に悟られないように感情を出さないようになった。智に近づこうとする人は居なくなり、智は友達も出来ず孤独になっていた。
智には人間を裁く能力を持ち合わせていた。それもあってか、感情的になってはいけないと思ったのもあるだろう。
死神である事を知られないように、偽りの仮面を被りながら生きていた。人間達が死神を恐れられているように、智も、人間達に死神である事を知られているのを恐れていた。幾ら仲良くなってとしても、死神と知られたら態度が変わってしまうかもしれない。
人間達と関わって傷つくくらいなら、いっその事近づかない方が良いと智は思っていた。
小学校に上がり、そんな智にも話し相手が出来た。名前は魚崎貫太、人懐っこいが友達が少なかった。智は、貫太の話を一方的に聞くだけだったが、貫太はそんな智に親しくしてくれた。
だが、智が貫太に話す事はなかった。自分が話せば死神の話題が出るからだ。結局、智は貫太に自分の事を話すことなく別れてしまった。
貫太との別れで、友達に意味は無いと思った智は、転校後も友達を作ろうとは思わなかった。
そんな中、出会ったのが香澄だった。前世で恋人だった香澄の記憶を思い出せようと、智は必死に通ったが、思い出してはくれない。前世で誤解したまま別れた二人の関係を、もう一度作ろうとは思った智は、香澄が死にかけている事を知ってしまう。
玲奈達に近づいたのは、利用する為だった。香澄を何としてでも死なせないように、玲奈達を使って阻止しようと思った。智は、玲奈達に深入りはしないつもりだったが、玲奈はそれを知らずに智に優しくしてくれる。勤と梨乃も、同じくらい智を気にかけてくれた。
「今のお前は、お前じゃない気がするんだ」
勤の言葉は、智にとって図星だった。その為、腹を立てて二人に襲いかかったのだ。
玲奈達との出会いが、智の何かを変えようとしている。だが、智はそれを必死に否定していた。
智は、本当の事を伝えたら、きっと玲奈達の態度が変わってしまうと思い、言い出すにも言い出せなかった。
智も、偽りの仮面を被り続ける事に疲れたのだ。死神である事に誇りを持っているのに、そうであるせいで、自分を抑え込み続けなければならない事に嫌気が差したのだ。だが、それならどうすれば良いのか、智には分からなかった。




