崩れ去る日常
桜が散ったが、まだ春の余韻が残るある日の事だった。五年生に進級した玲奈は、同じように中学生一年生になった玲奈と一緒に登校していた。真新しいブレザーに身を包んだ梨乃は、何処か嬉しそうに見える。
「梨乃姉ちゃん、中学校楽しいの?」
「ええ、そうね」
玲奈は珍しく嬉しそうな梨乃を見て、自分も嬉しくなった。
「玲奈ちゃんも、学校楽しい?」
「うん!楽しいよ!」
玲奈と梨乃は仲良く並びながら、歩いていた。
そして、もうすぐ小学校と中学校の別れ道だという所で、玲奈はこう呟いた。
「香澄さん、まだ退院しないのかな…?」
「時々お見舞いに行ってるけど、まだ時間掛かるみたいよ」
玲奈が心配しているのは、梨乃の同級生の岡本香澄だった。香澄はある大病を患っていて、しばらく入院している。梨乃は、よく香澄の所にお見舞いに行っていて、玲奈も付いて行った事があった。
「早く元気になってくれると良いけど…」
「そうね…」
玲奈と梨乃は別れて、それぞれの学校に歩き出した。
ちょっと前まではずっと一緒に小学校まで歩いていた玲奈は、梨乃が分かれ道で中学校に歩き出すのを見て、少し寂しい気持ちになった。
そして、玲奈も小学校に向かって歩き出した。大きな交差点に差し掛かると、突然、真っ黒なフードをすっぽり被った何者かが、玲奈にぶつかってきた。その人は、謝る事無く立ち去り、横断歩道を渡っていく。
玲奈は、その人を追いかけようとして、何かに躓いて転んだ。そこには、青い石が填められた真っ黒な本が落ちている。
玲奈がその本を拾うと、不思議な事に和綴じの赤茶色の表紙になっていた。だが、それに気づかず玲奈は、本を落としたと思われる人物を追った。
「ねぇ!本落としたよ!」
だが、その人は既に横断歩道の向こう側に行っていて、玲奈は追いかけられなかった。
「あいつになら、任せられるな」
そんな声が聞こえたと思った次の瞬間、交差点に暴走する車が突っ込んで来た。その車は、玲奈が行く方向とは異なる横断歩道に差し掛かり、一人の人を轢いた。辺りは血の海になり、周囲の人はどよめく。玲奈は、慌てながら携帯電話を取り出して、警察に連絡した。
しばらく経って、玲奈はようやく学校に辿り着いた。普段は来るのが早い玲奈だったが、警察の取り調べ等があって、始業時間ギリキリになってしまった。どういう訳か遅れた玲奈に、同じクラスに居た勤と愛花は心配して声を掛ける。
「どうしたんだ?珍しく遅れて」
「来る途中に事故を見て、遅れたんだ」
「事故…?」
勤と愛花が、玲奈の話を詳しく聞こうとした時、担任の堀内尚子先生が教室に入って来た。
「みんな、席に着いて!」
クラスメートがバタバタと席に着く中、玲奈も一番後ろの自席に座った。いつもと同じ席だったが、今日は様子が違った。一人で座っていたはずの席の隣に、もう一人席が出来ているのだった。
「あれ、なんでだろ…?」
そう不思議がる玲奈だった。すると、先生や生徒が勢揃いしているはずの教室の扉が開いて、中から誰かが入って来た。