迫り来る影
そして翌日、何事もなかったように玲奈は学校に来ていた。自分より先に学校に来ていた智を見て、玲奈は驚いた。
「智君!生きていたんだね!」
智は、玲奈が突然大声を上げた事に智は驚き、目を丸くした。
「玲奈、急にどうしたんだ?」
「だって智君倒れていて、死神に連れ去られたんだから、心配していたんだよ?!」
「死神…?」
智は少し考えて、こう答えた。
「ごめん、僕覚えてない。というか、玲奈死神なんて信じてるのか?」
「信じてるも何も…、この目で見たんだよ?!」
玲奈は、智に本当の事だと訴えるが、智は聞かない。
「いくら渡辺茂の孫娘だとしても、その話は信じられないな」
智は玲奈の話を遮るように、机から教科書とノートを取り出して、勉強し始める。それをわざとらしく思った玲奈は、智の横に座って、頬杖を付きながら横を見た。
「本当に、信じられないの?」
智の耳には、もう玲奈の話は入っていないようだった。
その日の帰り道の事だった。今日は事件も何もなく、そのまま家に帰る事が出来る。それで一人で帰ろうとした智の横に、勤がやって来た。
「智、ちょっといいか?」
智は、勤の方を少し見た後、また一人で帰ろうとする。それを勤は追い掛けた。
「お前、本当に玲奈の話を信じていないのか?」
「まあな…」
勤は智の先を歩いている。智の事を追っていたはずだが、いつの間にか追い抜いていたようだった。
勤はそのまま、智と話を続けている。
「智って、今までずっとこんな感じなのか?」
「うん、前の学校でもそんな感じだった。」
勤は智の顔を見ずに前を向いていた。智の顔には影が掛かっているが、気づいていないようだった。
「お前、感情とか、自分の言いたい事とかをはっきりとさせないよな?なんか驚いたよ。」
すると勤は突然足を止め、智の方を向いた。それに気づいて、智ははっと顔を上げる。
「智、お前、俺達になんか隠してる事ないか?」
智も足を止めた。
「何の事?僕は全然君達の事を…」
「なんだろうな、今のお前はお前じゃない気がするんだ。俺も昔、自分が嫌になって隠してた時期があった。だけど…、玲奈や梨乃さんは俺のどんなところも受け止めてくれたんだ。」
智は一瞬何かを言いかけたが、すぐにそれをやめた。
それに気づいた勤は、こう続ける。
「そんなに言いにくい事なのか?大丈夫さ、玲奈や梨乃さんならどんな事でも受け止めてくれる。もし、言いにくかったら俺にだけでも教えてくれたらいいから…。」
智は勤から目を背けた。
「うるさい…」
それは淡々してかつ、怒りが混じった声をだった。
「智、怒ってるのか?」
「俺の気持ちが分かってたまるか、人間の分際のくせに。」
そして、すたすたと一人で帰って行ってしまった。
「へっ、悪かったな!人間の分際で!」
勤は言ってすぐ、何かに気づいた。
「人間の分際……?!」
勤は智を追ったが、既に姿は消えていた。
「き、気のせいだよな…?俺の聞き間違いだよな…?」
勤の身体はいつの間にか震えていた。勤は日が陰っているからだと思ったが、どうやらそれだけではないようだった。
智と別れた後、勤は一人で歩いていた。家が山、住宅街の北の方にあるからか、周辺は坂が多い。歩くのに疲れた勤は、階段の中腹で一休みしていた。すると、背後から誰かの声が聞こえる。
「おい、」
勤が振り向くと、そこには夕焼けの空を背景に、誰かが立っていた。
影になっているのでよく分からないが、頭には黒いフードを被っていて、顔は仮面で覆われている。それは白い人の面ではあるが、左目は赤く、周囲が影がかかったように黒かった。そして、手にはギラギラと光る大鎌を持っている。
「死神…、まさかこんな所に…」
勤は思わず尻込みをした。死神は、そんな勤を見ながら、こんな事を言い出した。
「お前が、探偵団の勤か。」
「どうして俺の名前を…?」
「死神に分からない事があるとでも思ってるのか?」
勤は立ち上がろうとしたが、足が束縛されたように動かない。
「別にお前がどうしようとも俺は関係ない。危害を加えようとも思っていない。ただ…俺の事を暴くのなら容赦はしない。」
死神はそう言って、背中を向け、去っていった。
「なんだよ、これ……。」
勤はやっと立ち上がり、家に帰って行った。
夜になり、玲奈はもう布団に入っていた。そして、それを被って寝ようとしたその時、何かの気配を感じた。
「一体何…?」
玲奈が起き上がろうとすると、胸元に刃を向けられた。
「動くな。」
首を動かして見ると、本を渡された時に出会った死神が、大鎌を向けていた。
「玲奈…、お前は何がしたいんだ?俺はお前に見込みがあると思ってあの本を手渡したんだぞ?」
死神は玲奈に顔を近づけた。
「お前…、立場分かってるのか?人間は死神に逆らう事は出来ない。お前はあの本だけを追ってれば良いんだ。それなのに…俺の事を探るというのなら…、その時は、お前の魂抜き取ってやるからな。」
死神は仮面を少しずらし、紫色の光を放った。
「うっ……」
玲奈は身体全体が束縛された。その中で、目が赤く光った。
「死神め…、お前は何を企んでいる…?」
死神はそんな玲奈を見ながら窓から出て行った。
「お前の好き勝手にはさせない。」
空は暗くなり、死神の姿は溶けるように見えなくなった。
正気に戻った玲奈は枕を持って、母親の萌の部屋にやって来た。枕を抱き締めて、涙を拭っている玲奈を見て、萌は声を掛ける。
「玲奈、どうしたの?」
「お母さん、怖くて眠れないんだ」
「そう…」
萌は一緒に玲奈の部屋に来て、辺りを見渡した。特に玲奈が怖がるようなものはないと思った萌は、玲奈をベッドに寝かせる。
「もう何もないわよ。だから、安心して寝なさい」
「うん…」
萌が居る事によって安心したのか、玲奈はいつの間にかぐっすり眠ってしまった。




